2014 Fiscal Year Annual Research Report
J-PARCにおけるミューオニウム超微細構造の精密測定実験
Project/Area Number |
14J11374
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
神田 聡太郎 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | ミューオン / ミューオニウム / 超微細構造 / 精密測定 / 分光 / 陽電子検出器 / ミューオン検出器 / 検出器 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究課題の目的は,J-PARCにおける大強度パルスミューオンビームを用いてミューオニウムの超微細構造を精密にマイクロ波分光し,束縛系量子電磁気学の最高精度検証およびミューオン質量の精密測定を行うことである. 初年度は,実験に不可欠な構成要素である,2種類の粒子検出器の開発を行った.ひとつはミューオニウムのエネルギー状態を分光するための陽電子検出器であり,もうひとつは入射ミューオンビームの形状および強度を測定してビーム由来の系統的不確かさを低減するためのミューオン検出器である. いずれの検出器についても試作機を開発し,最終的な実験環境に最も近いJ-PARCの大強度パルスミューオンビームを用いてその性能評価を行った.陽電子検出器に関しては,瞬間的に多数の陽電子が入射する事象への耐性を評価し,また陽電子貫通事象における検出光子数の測定を行った.いずれの性能についても実験の要求を満たすことが確認された.ミューオンビームや標的中での相互作用,検出器平面上での陽電子通過位置分布などをモンテカルロ・シミュレーションで数値計算し,陽電子検出器の出力信号や性能の環境依存性などの実験的知見と組み合わせて最終的な実験の測定精度を見積もった.ミューオン検出器に関しては,試作機の試験で得られた知見をもとに最終的な実験で用いる実機を開発し,工作精度の評価や予測される最終的な性能の試算を行った. そのほか,高速なデータ収集システムの開発や気体標的中のミューオン静止位置分布の実測および数値計算を行い,実験における系統的不確かさを詳細に理解すべく様々な知見を得ることができた.検出器も含めて,最終的に本実験を行うために必要な開発および検討の項目が整理され,いずれも次年度の早い段階で達成可能な見込みとなった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は,実験における分光器の本体である陽電子検出器の開発を主に行う予定であった.性能評価試験および数値計算による検討が完了し,この開発は量産を残すのみとなった.データ収集システムの開発も並行して進行しており,陽電子検出器部分に関しては開発が完了した. 本実験を想定した詳細な数値計算フレームワークを開発して陽電子検出器の設計を行ったが,この過程でミューオンビームに由来する系統的な不確かさを低減するためにミューオンビームプロファイルモニタの改良が大きく寄与することが判明した.そのため,陽電子検出器に加えてミューオン検出器の開発も並行して行った.この開発は初年度中にほぼ完了し,最終的な実験系への組み込みを行う段階に到達した. 本実験の遂行のために必要な残る開発は陽電子検出器量産後の組み上げとデータ収集システムの統合であり,いずれの次年度の,必要十分に早い時期に達成可能な見込みである. 年度末に行う予定であったJ-PARCにおけるビーム試験は施設側の都合によりキャンセルとなったが,実験室における試験および数値計算によって進捗への影響は最小限にとどめられた.次年度においても事前の申請通りのビームタイムが採択されており,予備的な測定も含めて準備が進行中である. J-PARCにおける大強度ビームラインには既設のDラインと建設中のHラインがあり,当初の研究計画ではより強度の大きいHラインを使用する予定であったが,Dラインにおいても高精度での測定が可能であることが数値計算により示されており,Hラインの建設状況に依らず実験の遂行が可能である. 以上の点から,研究はおおむね順調に進展していると言える.
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は,初年度に開発した陽電子検出器およびミューオン検出器を統合して大強度パルスミューオン環境に対応した検出器系の完成をまず達成する.検出器個別の開発は既に完了しており,主な開発要素はデータ収集システムの統合である.進行中の検出器量産は次年度の早い段階に完了し,初年度に確立した手法に基づいて詳細な性能評価を行う予定である. 本実験における系統誤差の検討についても,初年度の数値計算をさらに発展させてより正確な議論を行う.測定条件を最適化するとともに,最も効率的な測定シークエンスを設定することで測定精度の向上を図る. 加速器施設側の状況への依存性を抑えるために,柔軟な測定系の構築を行い,特に既設ビームラインでの先駆的な実験にも対応可能な各種装置の構成を確立する.これらの開発および準備は最終的な新設ビームラインでの実験においても有用なものであり,いずれの場合においても測定精度の向上に寄与があるものである. ミューオニウムの基底状態における超微細構造を精密に測定し,結果を解析する.系統的不確かさを詳細に評価するための予備的な測定をあわせて行い,数値計算を援用して測定の高精度化を追求する.束縛系量子電磁力学の検証およびミューオン質量の決定を行い,既存の理論を最高の精度で検証するとともに,標準模型を超えた新物理の探索を行う.特に,ローレンツ対称性の破れと隠れたU(1)ゲージ粒子の探索に関する解析を行う.
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Research Products
(13 results)
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[Journal Article] Enhancement of muonium emission rate from silica aerogel with a laser-ablated surface2014
Author(s)
G.A. Beer, Y. Fujiwara, S. Hirota, K. Ishida, M. Iwasaki, S. Kanda, H. Kawai, N. Kawamura, R. Kitamura, S. Lee, W. Lee G.M. Marshall, T. Mibe, Y. Miyake, S. Okada, K. Olchanski, A. Olin, Y. Oishi, H. Onishi, M. Otani, N. Saito, K. Shimomura, P. Strasser, M. Tabata, D. Tomono, K. Ueno, K. Yokoyama, E. Won
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Journal Title
Progress of Theoretical and Experimental Physics
Volume: 091C01
Pages: 1-8
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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