2014 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
14J11506
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
李 宰河 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | 量子力学基礎論 / 数理物理学 / 量子推定 / 確率論 / 弱値 / 弱測定 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度においては、当初の計画に則り「弱測定」の手法の応用上の利点を解明するための理論構成を行った。報告者は、近年の「弱測定」を用いた精密測定実験の成功報告を調査した結果、この技術の本質は「事後選択」(条件付け)にあり、その主効果である信号増幅効果および副次的効果である統計的損失のトレードオフをうまく利用することによって、精密測定の障壁となっている様々な不完全性(ノイズ)を克服することにあると捉えた。この状況をモデル化するにあたり、測定における各種の不完全性を「測定の不確かさ」という概念を導入して把握した。これは、その性質が未知のノイズの存在も積極的に認識する現代的概念であり、従来の確率論が記述する範疇から外れるため、確率論を拡張したfuzzy 測度論を基盤として理論を展開した。Fuzzy 測度論は、量子力学の理論構成とも親和性が高く、これによって量子測定のあらゆる段階に含まれる「不確かさ」を一般的に記述し評価することが可能となる。特に、本研究の文脈においては、事後選択をしない従来の測定と事後選択をした場合との優劣を同じ基準の上で定量的に比較検証することを可能とし、実際に特定の種類の「不確かさ」においては、事後選択を行うことで測定精度が向上することが数値計算において実証された。 上記の結果のうち、特に「事後選択」の有用性に関するものは、既に今年度の初めに論文として正式に発表し、研究会・学会においても積極的に報告を行った。また、本研究の成果は、当該の目的であった「事後選択」の有用性の検証のみに留まらず、各種の「不確かさ」を含む量子測定の状況をモデル化するにあたって幅広く応用できるものと期待できる。残りの成果は、今年度中の早い段階で論文にまとめ発表することを目指し、また「事後選択」の有用性に限らずこの理論の応用範囲を探って研究を発展させていきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度においては、(A)量子力学基礎論的な観点からの「弱値」の特徴付けおよび(B)「弱測定」の応用上の利点の解析の両面からの研究を計画していた。以下に、当該年度の主な成果を挙げる。 まず(A)に関して、「弱値」の物理量としての解釈を探るため、これをその期待値として持つような何らかの(擬)確率分布としてどのようなものが考えられるかという問題に着目し、その特徴付けを試みた。その成果として、求める擬確率分布の族を特定することに成功し、またその選び方には不定性があることも分かった。この不定性は、近年「弱値」の概念の一般化として提唱され、「弱値」とその複素共役の「複素凸結合」として定義される「二状態量」の不定性と対応することも判明した。この結果は、近日中に正式に発表する見通しである。 また(B)に関しては、精密測定において「弱測定」を用いることの利点の本質を探ることを目指し、その過程で次の成果を得た。まず、測定装置に「不確かさ」のある場合の系を具体的にモデル化・解析し、その上で「弱測定」の応用上の利点を示した論文1編の学術雑誌への掲載を完了した。次に、前述の理論構築の一般化として、fuzzy 測度論による「不確かさ」のモデル化を行い、その上で「弱測定」を「事後選択測定」と一般化して捉えた解析を行った。さらに、量子測定において、測定器のみならず、状態準備や測定過程に不確かさのある場合の一般理論を fuzzy 測度論を用いて構築した。この結果は「事後選択測定」のような特定の状況に依存しない一般的なものであるため、「事後選択」の有用性に限らず広い応用範囲を持つことが期待される。この結果については、既に何度か学会での発表や国際研究会において招待講演を行い、また論文も近日中の公開を見込み現在準備中である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度においては、上述の(A)量子力学基礎論的な観点および(B)応用上の観点の両面からの研究を続行し、その推進にあたってそれぞれ次の方針を取ることを計画している。 まず(A)について、平成26年度の研究で得られた「二状態量」の基となる擬確率分布の特徴付けおよびその不定性の存在に関する成果を論文としてまとめることを急ぐ。次に、ここで得られた知見を基に、上述の不定性や、従来知られている擬確率分布の諸例(Wigner関数、Kirkwood関数等)との関係を考慮しながら、「二状態量」の物理的な意味付けや解釈を試みる。またその上で、量子力学におけるパラドクスの説明に「二状態量」が有用であるとする主張や、「二状態量」の観点から量子力学を見なおすことで量子力学の諸問題の理解に新たな視点を与えられる可能性の示唆を受け、我々の観点からこれらの扱うモデルを解析することで、これらの主張の検証を行う。 一方(B)についても、まずは「不確かさ」を含む量子測定理論の定式化の提案や、その上で「事後選択測定」の有用性を解析した結果について、平成26年度の研究で得られた成果を論文としてまとめることを急ぐ。また、ここで得られた結果を基に、近年主に光学実験において積極的に行われている実際の「事後選択測定」の応用例において、我々の構築したモデルがその実験現場の状況と合致するかを、直接実験家と接触して調査・解析する。その上で、「事後選択」の技術が有効である物理的理由の分析を行い、今後「事後選択測定」に限らず、広く一般に「不確かさ」の存在する量子測定の解析に本理論を広く応用するにあたっての基盤を作り、今後の研究の発展を目指す。
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Research Products
(5 results)