2014 Fiscal Year Annual Research Report
自然欠陥を考慮した二酸化チタンの電子物性と熱力学的な相安定性の研究
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14J11856
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
青木 祐太 東京工業大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | 二酸化チタン / 酸化物半導体 / 光触媒 / 第一原理計算 / 格子振動 / 国際研究者交流 / アメリカ合衆国 |
Outline of Annual Research Achievements |
高濃度窒素ドープ二酸化チタンについて、その合成条件を理論的に提案するとともに、合成可能と判明した系に関してはその電子状態を解析した。その結果、酸素欠陥が存在したり、窒素原子にペアリングが起きたりした場合に高濃度での合成が可能であることが判明した。また、合成の際の窒素供給源としてはTiNが適していることがわかった。電子状態に関しては、酸素欠陥が窒素不純物に対して適切な濃度で導入されると、二酸化チタンよりも小さなバンドギャップが実現できることがわかった。 次に、Black TiO2およびチタン酸窒化物の電子状態の研究を実施した。まず、また構造が解明されていないBlack TiO2の構造モデルを提案するとともに、その電子状態の理論解析を行った。我々の提案したBlack TiO2の構造モデルは実験的に観測された価電子バンドの状態密度の形状をよく説明できることがわかった。また、バンドギャップは通常の二酸化チタンより1eV以上小さい2eVであり、幅広い波長域にわたって可視光を吸収することが期待できる。次に、亜酸化チタン系の物質をもとにチタン酸窒化物の合成が実現できうることを提示し、その構造モデルを提案した。このチタン酸窒化物のモデルの電子状態を理論的に解析したところ、こちらも二酸化チタンより1eV程度小さいバンドギャップを持つことがわかった。 最後に、フォノン効果を考慮することにより二酸化チタンの熱力学的性質を理論的に解析した. その結果, ルチル相とアナターゼ相についての温度-圧力相図を理論的に作成することができた. また, この結果に基づき, アナターゼ-ルチル相転移の不可逆性の起源について考察した. また, フォノンの状態を考慮した場合の系の構造定数および弾性定数についての予測精度の検証を行い, 局所密度近似が一般化勾配近似よりも精度が高くなることがわかった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当年度は、酸素欠陥が存在する場合の二酸化チタンへの高濃度窒素ドーピングの効果を理論的に研究することができた。そのため、従来行われてきた完全結晶への窒素ドーピングの研究から一歩先に進み、酸素欠陥が窒素ドーピングに与える影響について新たな知見を得ることができた。さらに、二酸化チタンに関連する物質として新たに「チタン酸窒化物」を提案することができた。この「チタン酸窒化物」は、酸素欠損を生じたチタン酸化物である亜酸化チタン系の物質群について、一部の酸素を窒素で置換することにより合成できると考えられる化合物であり、これは酸素欠損を含む窒素ドープ二酸化チタンと関連が非常に深い系であろうと考えられる。このような系を新たに提案することにより、酸素欠陥と窒素ドーピングの関係について、新たな視野が得られるものと期待できる。これまでの研究成果からは、高濃度窒素ドープ二酸化チタンとチタン酸窒化物はともに、可視光応答型の光触媒材料として応用できることが期待されることから、応用面でも重要な成果が得られたといえる。 また当年度は、Black TiO2の構造モデルの提案およびその電子状態の理論解析を行った。Black TiO2は通常の二酸化チタンとは異なり、可視光を幅広く吸収する光触媒材料として知られているが、その構造は特定されていない。当年度の研究では、このBlack TiO2の構造モデルを提案し、そのモデルに対する理論解析の結果から、我々が提案した構造モデルは実験的に観測されたBlack TiO2の電子状態をよく説明できることがわかった。Black TiO2は可視光応答型の光触媒として大きな期待を集めている物質であり、その構造が特定できれば今後の研究に大きな進展をもたらすと期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究は主に密度汎関数理論に基づく理論解析であったが、バンドギャップなどの光学的な性質に関わる物性値については密度汎関数理論では実験値をよく再現できないため、グリーン関数を用いた多体摂動論を用いる必要がある。今後の研究においては、多体摂動論のひとつであるGW法を用い、窒素ドープ二酸化チタンや酸素欠陥を含む二酸化チタンの電子状態の研究を行う予定である。さらに、Bethe-Salpeter方程式に基づいた計算を行い、光吸収スペクトルの計算も行いたいと考えている。また、二酸化チタンの熱力学的な性質に関しては、これまでの研究によりルチル相とアナターゼ相についての相図を理論的に導出することができた。しかしながら、二酸化チタンは合計で11種類の固体相を持つことが知られているので、ブルカイト相やTiO2-II相も含んだ相図の作成を行いたいと考えている。さらには、完全結晶の場合だけではなく、酸素欠陥を含んだ系に関しても同様の研究を行い、その相図を作成したいと考えている。また、我々が新たに提案したチタン酸窒化物に関して、その合成条件を理論的に提案し、実験家との協力を得て実際にチタン酸窒化物の合成を実現させたいと考えている。
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Research Products
(5 results)