2014 Fiscal Year Annual Research Report
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14J11922
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
小松原 織香 大阪府立大学, 人間社会学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | 修復的司法 / 性暴力 / 赦し / 被害者支援 / 国際情報交換 / ベルギー / 英国 / ドイツ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はジェンダーの視点を持った赦し論の構築を行うこと目的とする。その際には①修復的司法、②宗教的赦し③被害者支援の三つの領域に参照軸を定め、それぞれの間の関係性に着目する。この三領域では研究者や実践者が独自の赦し論を提唱しており論争になっている。申請者は実証研究を参照しながら、(A)領域間での論争を取り上げて検討して理論研究を行い、総合的な赦し論の構築を目指す。さらに(B)海外の研究者たちとの国際研究ネットワークを構築する。 (A)理論研究 理論研究については、被害者学会やメディエーターズ(対話を実践する団体)での講演会で、性暴力事例における修復的司法の実践可能性と、その中で産まれる赦しについての発表報告を行った。従来の被害者支援団体は、修復的司法や赦しについて批判的であった。しかしながら、海外でセラピストが主導する被害者を中心にした実践可能性を提起することで、新たな議論の枠組みを共有することができた。 (B)海外での国際研究ネットワーク構築 海外でのネットワーク構築については、平性26年度は、北米のレズビアン分離主義団体についての調査を予定していた。従来の国内での研究者間の議論でも、性暴力事例における修復的司法の実践は北米が盛んであるように考えられてきた。しかしながら、情報収集を進める中で、実際には先進的な取り組みを行っているのはアイルランド、ベルギー、デンマークなどのヨーロッパ諸国であることが明らかになった。さらに、EUが出資するダフネ・プロジェクトの一環として、連続した研究集会が2013年から2014年にかけて実施されていることが判明した。そこで予定を大きく変更して、プロジェクトの一部であるワークショップ(フライブルク、9月)と学会(ルーヴァン、11月)に参加した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(A)理論研究 国内の学会、講演会において学者、被害者支援者、矯正保護関係者、セラピスト、ソーシャルワーカー、フェミニストなど異なる立場の人たちと「対話と赦し」について議論することができた。 (B)海外での国際研究ネットワーク構築 学会やワークショプでは、性暴力事例における修復的司法について、セラピストや実践者を加えて集中的な議論が行われた。学会では日本における修復的司法についての報告も行い、海外の研究者や実践者との対話や重要な資料の収集ができた。とりわけ、ルーヴァン大学の犯罪学研究所は被害者学の研究拠点でありながら、修復的司法のヨーロッパフォーラムの事務局でもある。研究科長のアートセン教授をはじめ、被害者支援の視点から修復的司法に取り組む研究者と意見交換することができた。また、ダフネ・プロジェクトへの参加を通して、国際的な議論で大きな論点となっているのは①セラピー(心理療法)と修復的司法(正義)の違い②西洋中心主義への疑念であることが明らかになった。中東やアフリカなどの非西洋圏の研究者からは、近年の修復的司法研究が宗教的な問題を排除していることが指摘され、その点を論文にまとめた。加えて、英国における修復的司法週間(ロンドン、11月)に参加した。修復的司法を実践する団体がこの期間には年次集会を行い、総会やシンポジウムを開催している。ハワードリーグ、RJCの年次集会に参加した。英国では以前より市民の活動として広められてきたメディエーション(対話による紛争解決)と修復的司法が合流しつつある。英国において、対話によるコミュニケーションを中心に据えた市民の活動として修復的司法が捉え直されている可能性がある。こうした状況について情報収集を行うことができた。さらに考察を行い、修復的司法には対話によるコミュニケーションの側面があると同時に、宗教性の側面があることを指摘し、論文にまとめた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度は、昨年度に収集した資料を元に博士論文を執筆する予定である。性暴力事例における修復的司法は①対話によるコミュニケーションと②宗教性の二側面から検討することが出来ると考えられる。「コミュニケーションによる紛争解決」である修復的司法の中で、赦しという非言語的で宗教性をもった行為がどのように扱われるのかを明らかにしたい。こうした研究成果の中間報告として、学会(応用哲学会)や研究会で報告し批判を仰ぐ。 また、再度、ルーヴァン大学を訪問し、アートセン教授をはじめとした被害者学の研究者と意見交換をしたい。
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Research Products
(4 results)