2014 Fiscal Year Annual Research Report
市民的資質としての思考とその教育に関する理論的検討-後期アレントに着目して-
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14J12253
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
村松 灯 東京大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | ハンナ・アレント / シティズンシップ教育 / 政治的リテラシー / 思考 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、ハンナ・アレントの後期思考論の検討を通して、思考重視型シティズンシップ教育を理論的に提示することである。具体的な課題は次の三点である。 ①思考の教育可能性を明らかにすること。②個人の内的自由との関係において、思考重視型の倫理的妥当性の条件を明らかにすること。③問題を「思考(哲学)と政治はどのような関係にあるのか」と再定位し、より大きな思想的文脈に位置づけること。 本年度は、それぞれの課題について以下のような進捗があった。 ①及び②について:二つの課題に関わる内容として、シティズンシップ教育における「論争問題」の導入に着目し、実践・理論の両面から検討した。論争問題学習については、政治的リテラシー育成の観点から意義が指摘されるとともに、実践にあたっては政治的中立性との関係において特別な配慮が求められている。本年度は、お茶の水女子大学附属小学校の「社会科」の実践を観察し、具体的な授業場面を手がかりに考察を加えた。また理論面では、アレントのほか、ジャック・ランシエールの思想に着目して、政治的リテラシーの重層性を明らかにした。 ③について:(1)アレントの判断論の検討。後期アレントにおいて、思考は「精神の生活」(思考・意志・判断)という三つの基本的精神活動の一つに位置づけられる。アレントは三つの精神活動についてそれぞれ政治との関係を論じており、思考と政治との関係性の特質を明らかにするためには、他の二つの精神活動についても検討する必要があると判断した。本年度は、アレントが精神活動のうちで最も政治的であるとする判断について、そこでの他者理解のあり方に着目して考察した。(2)アレントのハイデガー解釈。思考と政治をめぐるアレントの議論は、彼女の師ハイデガーとの思想的対決を通して展開された。本年度は、『精神の生活』でのアレントのハイデガー解釈を手がかりに、両者の思考論を比較検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究目的達成のために必要な三つの課題それぞれについて、一定の進捗があったため。また、得られた知見についてまとめ、学会誌等に発表することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究成果をふまえて、それぞれの課題について継続して検討を進める。 課題①および②については、論争問題学習や政治的リテラシーの教育に関して、今後は教師の立ち位置や教材の選定に関しても考察を加えていきたい。また、本年度は個人の内的自由に関する検討が不十分だったため、思想・良心の自由や政治的中立性といった論点について、教育学だけでなく法学での議論等も参照しながら検討していくこととする。 課題③については、アレントの意志論についても検討することで、思考と政治の関係の特質について、彼女の思想内在的に浮き彫りにしたい。さらに、ハイデガーとの関係についても、テクスト・コンテクストの両面から継続して検討を進める。
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