2015 Fiscal Year Annual Research Report
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14J12287
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
坂口 哲也 東京大学, 薬学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 記憶痕跡 / 情動行動 / 神経可塑性 |
Outline of Annual Research Achievements |
申請研究では、過去の経験がその後の個体の記憶形成および情動行動にどのような影響を及ぼすのかという点に着目しており、その背景に存在する神経回路基盤の解明を目指している。本研究ではまず、マウスの恐怖記憶形成における事前経験の効果とその特性について検討した。マウスは電気ショックを受けると、恐怖反応の一種であるすくみ反応を示す。我々は、この性質を利用することで、事前に一度ショックを経験したマウスではその後の恐怖記憶形成が促進されることを見出した。また、その促進効果が少なくとも3週間は持続することや、事前に別の痛覚刺激を経験した場合には生じないことを明らかにした。さらに、薬物投与によりNMDA型グルタミン酸受容体を阻害すると、この効果は消失したことから、NMDA受容体を介した神経回路の可塑的変化が関与していることが示唆された。以上の研究成果を論文にまとめ、Neuroscience Research誌に発表した。続いて、仲間のマウスが電気ショックを受ける姿を別のマウスに観察させた際に、観察する側のマウスの挙動が自身の経験によりどのような影響を受けるのか検討した。上記の実験と同様、事前に一度ショックを経験したマウスでは観察時の恐怖反応が増強し、その効果が神経回路の可塑的変化に依存することを見出した。この結果は、過去の経験が脳内に痕跡として保存されることで、後の社会行動が影響されるということを示唆するものである。そこで、生化学的手法により神経活動を検出したところ、他者のショック観察時に情動変化を生じやすいマウスに見られる神経活動の特徴が明らかになった。さらに、この実験系を用いることで、病態モデルマウスにおいて見られる行動異常の特徴や、行動調節に関わる受容体を見出すことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでに、過去の経験がその後の記憶形成および情動行動に及ぼす影響を評価する実験系を構築し、その背景で生じている神経活動の性質を明らかにしてきた。さらに、その実験系を用いて、病態モデルマウスにおいて見られる行動レベルや神経活動レベルでの異常の特徴や、関わる受容体の同定に成功している。これらの成果は神経科学および薬理学の分野で高く評価され、国内外の学会にて優秀発表賞等を受賞している。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までに、過去の経験がその後の記憶形成や情動行動に影響を及ぼす影響を神経活動の変化として捉えてきたが、今後は、そうした神経活動の調節メカニズムを薬理実験により解明することを目指す。また、その結果に応じて病態モデルマウスにおける行動異常の改善を試みる。
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Research Products
(8 results)