2014 Fiscal Year Annual Research Report
合成生物学的アプローチによる鉄硫黄クラスター合成系の反応機構と多様性の解析
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14J12351
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
田中 尚志 埼玉大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | 鉄硫黄クラスター / 鉄硫黄タンパク質 / 生合成 / マシナリー / 分子生物学 |
Outline of Annual Research Achievements |
鉄硫黄(Fe-S)クラスターは単純な形をしたコファクターだが、その生合成は複雑な多成分酵素系が担っている。大腸菌はFe-Sクラスター生合成系としてiscSUA-hscBA-fdx-iscXにコードされるISCマシナリーと、sufABCDSEにコードされるSUFマシナリーを持っており、それぞれ独立してクラスターを形成している。しかし、大腸菌のISCとSUFの二重欠損は合成致死となるため、これまで遺伝学的な解析はほとんど行われていなかった。一方、最近私は大腸菌のイソプレノイド合成経路を放線菌由来のメバロン酸経路に代謝改変することにより、クラスター生合成系の必須性を回避できることを見出した。そこで本年度は、大腸菌ISCマシナリーのin vivo機能解析を進めた。 まず、大腸菌のイソプレノイド合成経路をメバロン酸経路に改変した上で、sufオペロンと各isc遺伝子をそれぞれ個別に破壊した大腸菌変異株を構築した。構築した7種類の大腸菌変異株の表現型を詳しく比較・解析したところ、IscS, IscU, IscA, HscB, HscA, FdxがISCマシナリーのクラスター形成機能に必須であることが分かった。また、嫌気的条件下では、IscAとFdxが必ずしも必要ないことが分かった。 次に、上記の実験系を用いて、ISCマシナリーの中心成分であるIscUの機能解析を行った。その結果、IscUのTyr3, Asp39, Lys103がIscUのin vivo機能に必須であること、またIscU Tyr3は芳香環族アミノ酸とのみ代替できることが分かった。さらに、IscU Tyr3の二次的なサプレッサー変異をIscS(硫黄原子の供与体)の活性部位近傍に4種類同定した。これらの結果は、IscU Tyr3がIscSの構造変化を引き起こして、硫黄原子受け渡し反応を促進させる役割があることを示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ISCマシナリーについて詳細なin vivo機能解析を進めることによって、ISCマシナリーの必須成分を明らかにし、さらにマシナリーの中心成分であるIscUのin vivo機能について以下のような知見を得ることができた。 1. 大腸菌のイソプレノイド合成経路の代謝改変した上で、sufオペロンと各isc遺伝子をそれぞれ破壊した大腸菌変異株を構築することによって、isc遺伝子破壊の影響を正確に評価することができた。すなわち、IscS, IscU, IscA, HscB, HscA, FdxがISCマシナリーの機能に必須であること、また嫌気的な条件下では、IscAとFdxは必ずしも必要ないことを明らかにした。 2. “1”の実験系を用いて、IscUに対して部位特異的変異導入実験を行ったところ、クラスター配位子に加えて、新たにTyr3, Asp39, Lys103がIscUのin vivo機能に必須であることを明らかにした。さらに、Tyr3の位置には芳香族アミノ酸が必須であることを明らかにした。 3. IscU Tyr3を他のアミノ酸に置換した変異型IscUは機能不全となるが、そのサプレッサー変異をIscS(硫黄原子の供与体)の活性部位周辺に複数種類同定した。結晶構造では捉えることができない、IscUとIscSの機能的な相互作用を解き明かす上で重要な知見を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
1. 本年度で得られたin vivoの知見に基づいて、野生型と変異型のIscU/IscSをそれぞれ精製し、生化学的な解析(pull downによる相互作用解析や硫黄受け渡し活性の測定など)を進める。 2. サプレッサー変異型IscSと変異型IscUの複合体の精製を試み、複合体の結晶化を検討する。 3. 引き続き、IscUに対して変異導入実験を進め、IscUの機能残基/機能領域を洗い出す。続いて、二次的なサプレッサー変異の取得を進め、IscUを中心としたISCマシナリーの相互作用ネットワークを明らかにする。 4. Fe-Sクラスター生合成系とアポ型タンパク質との間の相互作用は一過的かつ微弱であると考えられる。これらの相互作用を捕捉する目的で、ホルムアルデヒド(膜透過性で官能基に対する特異性が広い架橋試薬)を用いたin vivo架橋実験を行う。架橋産物は特異的抗体を用いたウエスタンブロッティングで検出する。さらに免疫沈降と質量分析により、架橋産物を同定する。
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Remarks |
日本ゲノム微生物学会のニュースレター(p7-8)
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Research Products
(5 results)