2014 Fiscal Year Annual Research Report
メキシコのCCTパネルデータを用いた動学的貧困・脆弱性分析
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14J40002
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
内山 直子 神戸大学, 経済経営研究所, 特別研究員(RPD)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 貧困 / 脆弱性 / ミクロ計量経済学 / 開発経済学 / パネルデータ分析 / メキシコ / ラテンアメリカ |
Outline of Annual Research Achievements |
交付申請書に記載した「研究計画」において、2014年度の最重要課題と位置づけていた1997年から2011年までの11ラウンドに渡る条件付き現金給付( CCT)プログラムに関する農村パネルデータ(ENCEL)を用いたリスクシェアリングモデルの分析についての成果は次の通りである。まず2014年度前半は、前年度に応募していた神戸大学経済経営研究所の兼松フェローシップ懸賞論文の審査結果および審査員のコメントに基づく再推計を行い、推計結果をさらに精緻化させた。改定した論文は「Do Conditional Cash Transfers Reduce Household Vulnerability in Rural Mexico?」と題して神戸大学経済経営研究所のディスカッションペーパー(DP2014-40)として刊行した。同論文は近日中に海外ジャーナルに投稿する予定である。 また、ENCELデータを用いて「メキシコの最近の貧困悪化と家計の脆弱性に関する一考察」という新たな論文をまとめた。本論文では、2000年代のメキシコの堅調な経済成長に伴って継続的に観察された貧困率の低下が2006年を境に反転した現象を、家計の脆弱性に焦点を当てて議論したものである。本論文は2014年11月の第51回ラテン・アメリカ政経学会全国大会で報告し、そこでのコメント等をもとに再推計および加筆・修正のうえ近日中に神戸大学経済経営研究所のディスカッションペーパーとして刊行の上、海外ジャーナルへの投稿を予定している。 ENCELデータの整理については2000年および1999年分を処理した。また、新たに入手したイベロアメリカ大学(メキシコ)が独自に行った2012年までの3期間に渡る家計調査パネルデータ(MXFLS)の整理と並行し、今年度も院生の研究補助を得て引き続きデータ整理作業を進めていく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の計画においては、最重要課題であるCCTパネルデータを用いたリスクシェアリング分析に関しては年度前半のうちに再推計および加筆・修正を終え、海外ジャーナルに投稿する予定でいたが、結局年度末までに投稿することはかなわず、その後に予定していた期間を拡張しての分析にまで及んでいない。 この理由として考えられるのは、所属機関の移動に伴う環境変化への対応に時間を割かれてしまったという、特別研究員1年目特有の理由によるものである。所属機関にとっては特別研究員の受け入れは約10年振りであったため、事務方の対応が特に初期段階において遅れがちであり、学内アカウントの取得に約1ヶ月かかった上、指定された研究室からの大量のダニ発生による部屋の移動など、スムーズな始動には至らなかった。また、特別研究員の性格上、所属機関からパソコンやプリンターの貸与は受けられないため、研究に必要な備品は科研費等で賄う必要があったが、科研費の内定が遅かったために必要な備品購入が5月以降になり、注文から納入までのタイムラグを入れると6月なってようやく必要な機材が揃い、態勢を整えることができた。 さらには、想定外の家庭事情として新学期を境に息子の保育園の不登園問題が発生し、保育園、各種相談機関、医療機関への頻繁な訪問と協議をしながら新しい学校を探すなど一連の対応に追われる一方、家庭内で息子のケアをする必要があった。 上記の結果として、想定していたよりも約半年の研究の遅れが生じてしまったものと思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後については、現在進行中の2本の論文の海外ジャーナルへの投稿準備を最優先に行う。その上で、前年度に引き続いてENCELおよびMXFLSパネルデータを整理し、随時、上述のリスクシェアリングモデルを拡張して行く予定である。とくに、拡張する上で鍵となる2008年のリーマンショック以降のメキシコ農村における貧困と脆弱性の動態については、予定ではENCEL2011年版を用いて分析を行う予定であったが、調査から4年目となる現在においても未だに入手不可となっている。このため、ENCELに比べると規模は小さいが、農村パネルデータが含まれているイベロアメリカ大学による家計調査データ(MXFLS)が2012年までリーマンショックをはさんだ3期間の使用が可能となっているので、MXFLSデータに切り替えて新たな分析を行うこととしたい。 リスクシェアリングモデルの拡張に引き続き、CCTの若者の就労効果に関する分析にも着手して行く予定である。本研究はメキシコ並びに世界的なCCTによる貧困対策プログラムの中長期的効果を測る上で最も重要なテーマであるが、未だ単年度のデータしか存在せず、その効果の検証のためには現地でのフォローアップ調査が不可欠であり、そのために特に現地との共同研究の可能性を探る必要がある。同時に、データの不足を補うためにシュミレーションや構造推計など理論に基づく様々な推計を試みる必要がある。6月にMITで行われるAbdul Latif Jameel Poverty Action Lab (J-PAL)のエグゼキュティブ・コースに参加し、新たな手法を習得するとともに、同機関にはメキシコのCCTをはじめとする世界各国の貧困プログラム評価の専門家が集っているため、海外研究者との情報交換および共同研究への足がかりを築きたいと考えている。
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Research Products
(4 results)