2015 Fiscal Year Annual Research Report
メキシコのCCTパネルデータを用いた動学的貧困・脆弱性分析
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14J40002
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
内山 直子 神戸大学, 経済経営研究所, 特別研究員(RPD)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 条件付き現金給付 / CCT / 貧困 / 脆弱性 / パネルデータ / メキシコ / 農村 / ラテンアメリカ |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度に引き続き、本研究計画における最重要課題であるメキシコの条件付き現金給付(CCT)プログラムに関する、農村パネルデータを用いたリスクシェアリングモデルの分析結果を基にした論文「Do Conditional Cash Transfers Reduce Household Vulnerability in Rural Mexico?」については、不採用となったジャーナルの査読結果を踏まえ、更なる内容の改定を行った。同論文は第52回ラテン・アメリカ政経学会全国大会で報告し、近日中にJournal of Development Studiesに投稿する予定である。なお、本研究の初期の推計結果に関しては、新たな論文としてまとめ直し、「Consumption Smoothing and Household Vulnerability in Rural Mexico」として2016年2月に神戸大学経済経営研究所ディスカッションペーパーシリーズとして発表した。また、論文「メキシコの最近の貧困悪化と家計の脆弱性に関する一考察」を2015年5月に神戸大学経済経営研究所ディスカッションペーパーシリーズとして発表するとともに、2016年3月に『経済経営研究年報』第65号に掲載された。 さらには、今後の研究における最新情報及び手法の習得を目的とし、2015年6月にマサチューセッツ工科大学経済学部Abdul Latif Jameel Poverty Action Lab(J-PAL)におけるExecutive Education Course “Evaluating Social Programs”(5日間(47時間)コース)に参加した。本コースに参加することで、最新の知識を習得すると共に、ランダム化対照実験の研究・推進機関であるJ-PALスタッフおよび各国からの専門家との人脈形成ができたことは今後の大きな収穫となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在、本研究課題の中心課題と位置付けている論文「Do Conditional Cash Transfers Reduce Household Vulnerability in Rural Mexico?」の査読コメントを受けた改訂がほぼ最終段階にあり、英文校正を経て近日中にJournal of Development Studiesに投稿できる段階にある。もし、本ジャーナルにおいて論文が却下された場合には、インパクトファクターを考慮しつつ他の海外ジャーナル(例えばEuropean Journal of Development ResearchやLatin American Economic Review)への再投稿を視野に入れている。 また、本研究課題において日本語・英語併せて4本の論文を執筆・発表してきたが、本研究の集大成として、上記ジャーナル投稿論文を除く3本を中心に、Springer社よりKobe University Social Science Research Series(査読有)のうちの1冊として英語書籍出版のための準備を進めている。本書籍は5章から成る予定であり、第1章Outlook of the Mexican Economy, Poverty, and Vulnerability、 第2章Recent Poverty Increase and Household Vulnerability in rural Mexico、第3章The Impacts of Rising Food Prices and the CCT on the Consumption in rural Mexico、第4章Consumption Smoothing, Risk Sharing, and Household Vulnerability in Rural Mexico、第5章Discussions and Some Implications for the Futureとし、2016年中の出版を目指している。
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Strategy for Future Research Activity |
現在まで、本研究計画の第1の課題であるリスクシェアリングモデルを用いたメキシコCCTの家計の脆弱性緩和効果については、複数の分析から有意な結果が得られ、分析結果をまとめる段階に入った。一方、第2の課題として掲げていた「若者の就業状況の変化を通してみるCCTの中長期的効果に関する分析」はこれからの課題である。2008年にメキシコ政府が若者の動向調査を行い、データを公表していたが、その後の追跡調査は行われず、分析のための十分なデータが揃わずにいたが、今年に入って2013年の第2次調査の結果とデータがメキシコ政府によって公開され、研究推進への大きな足掛かりとなった。しかし、膨大なサンプルのスペイン語個票データであるため、データの整理にそれなりの時間がかかることが想定されることから、継続的にスペイン語と計量経済学の知識を持った院生の研究補助が欠かせないが、所属機関内には適任者がいないという問題がある。もし、適任者が得られたならば、当初の予定通りこれらのデータを用いて、CCTのもとで教育を受けてきた若者が、1)より良い職を得ることができているのか、2)教育効果により期待されたような収入増加の恩恵を受けているのか、3)教育・栄養の改善による生産性の上昇効果で貧困からの脱出が可能となっているのか等について分析していく。 一方で、適任者の確保が困難な場合は、メキシコの企業パネルデータを用いて上述3)の生産性向上に関する分析から始めたい。近年、メキシコをはじめとするラ米諸国の低成長の原因をを生産性の低さに求める見方が主流にあることを踏まえ、若者の雇用に対する需要側(雇用量・質の拡大)の要因に焦点当てた分析を中心に行う。ただし、本年度が当該研究計画の最終年であることから、これらの研究課題については来年度の科研費新規プロジェクト(若手B/基盤C)を申請の上、海外研究者との協力も視野に引き続き同研究を進めていきたい。
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Remarks |
研究成果はトップページの新着情報及び毎月のニュースレターとして報告されている。 また、ディスカッションペーパーおよび経済経営年報に掲載の論文は全て公開されている。
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Research Products
(7 results)