2015 Fiscal Year Annual Research Report
シラーを主とした19世紀ドイツにおけるラテン翻訳論の受容
Project/Area Number |
14J40008
|
Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
高畑 時子 同志社大学, グローバル・コミュニケーション学部, 特別研究員(RPD)
|
Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
|
Keywords | 通訳翻訳論 / 西洋古典学 / ドイツ文学 / 英文学 / 19世紀翻訳論 / キケロー / ヒエローニュムス / アレクサンドリアのフィローン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は以下の予測を立てている。英語やドイツ語など現代ヨーロッパ語は、主として古代ギリシア・ローマ文学作品の翻訳を通じて培われてきたが、なかでも19世紀ドイツのフリードリヒ・フォン・シラーらの存在は、ヨーロッパ文学の翻訳史の中でターニングポイントとなった。シラーをはじめとする近代ヨーロッパ人の翻訳作品や思想にも、ラテン文化が大きく影響していた。それどころか、ギリシア文化が優位と言われていたゲーテ時代にあって、一般的にも実質的にはラテン文化の方が優位にあった。そこで、ラテン文化に幼少時から馴染んで愛したシラーらドイツ人作家の功績が、当時のドイツに広まった後 、他のヨーロッパ諸国にも広がり、今日の英語やドイツ語などヨーロッパ諸国語に成長するに至った。以上の予測を検証することに、本研究の独自性があると考える。 キケローをはじめとする古典修辞学や思想、および19世紀ドイツ社会や文化など、各分野に関するすぐれた先行研究の長い蓄積はあり、個別的研究は年々増加している。しかし、それぞれが独立、分離しており、ラテン文化と近現代ヨーロッパの接点を包括的に論じた研究は未だほとんどない。本研究の特色は、ギリシア作品のラテン翻訳およびラテン語教育を含むラテン文化が、初期キリスト教期、中世を経て、19世紀ヨーロッパにおいてドイツ国家の発展に貢献し、ドイツ語が大衆化したことで、ドイツ国民を国家統一へと導いたこと。さらに、それがイギリスなど他の諸国にも伝播し、影響を及ぼし、国家の発展に繋がった過程を解明しようとする点にある。すなわち本研究課題は、古典期から19世紀に至るまでの翻訳理論の伝統と発展の過程、およびその社会的影響を調査することにより、古典の価値や有用性を再認識し、これにより積極的に新たな翻訳学や修辞学理解を深めようとするものである。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度の主な成果については、通訳翻訳史において重要であるが、これまで本邦未翻訳であった古代ギリシア・ローマの主要作品を和訳し、以下の雑誌に発表した。(1)高畑時子、「ヒエロニュムス著「翻訳の最高種について」(書簡57「パンマキウス宛の手紙」)」、『近畿大学教養・外国語教育センター紀要』第6巻第1号 (2015年)。(2)高畑時子、「アレクサンドリアのフィローン著「七十人訳の創造について」(『モーセの生涯』2巻1~58節より)」『文芸学研究』(文芸学研究会篇)第20号(2016年)。 一方、2つの学会誌に、以下の分析論文が掲載された。(3)高畑時子、「ウルガータ聖書・マルコによる福音書におけるヒエロニュムスの翻訳法 (特集 翻訳と文学)」、『世界文学』(世界文学会篇)第122巻(2015年)、(4)高畑時子、「ウルガータ聖書・マタイによる福音書における翻訳法―ヒエロニュムス「書簡57」との比較研究―」、『比較文化研究』(日本比較文化学会篇)121号(2016年)。 他にも、本課題に関する以下の口頭発表を行った。(5)高畑時子、「シラーを主とした19世紀ドイツにおけるラテン翻訳論の受容」、日本学術振興会研究交流会、2015年9月7日、於:明治会館、(6)高畑時子、「ウルガータ聖書・マタイによる福音書におけるヒエロニュムスの翻訳技法」、日本通訳翻訳学会第16回年次大会、2015年9月13日、於:青山学院大学、(7)高畑時子、「古代ギリシア・ローマの翻訳思想」、日本通訳翻訳学会第9回翻訳研究育成プロジェクト大会、2015年9月19日、於:同志社大学。 同分野の人と比べると数は決して多くないが、少なくとも26年度以前の自分と比べると発表数は倍増した。また、古典期の主要な翻訳論についてはほぼ網羅し終えた。このため、自身が立てた当初の計画の最低限は発表できたと考える。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、平成26年度および27年度の古典翻訳論研究の成果を基に、古典から初期キリスト教期、中世を経て近代初期ドイツ・イギリスに至るまでの翻訳論研究を行ない、古典翻訳論の需要と発展史について新たな見解を一冊の著書などある程度まとまった形で発表したい。具体的には、主にマルティン・ルターの聖書翻訳、フリードリヒ・フォン・シラー、ウィリアム・ワーズワスの翻訳法を明らかにし、国内外で発表したい。 何分扱う範囲が広いので、年度末までに終えられるかどうか未定であるが、最善を尽くしたい。
|
Research Products
(7 results)