2014 Fiscal Year Annual Research Report
家族展開期に対応した開放型の住宅計画論の構築-郊外独立住宅地の持続再生を目指して
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14J40073
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
梅本 舞子 千葉大学, 工学研究科, 特別研究員(RPD)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 居宅訪問型保育 / 子育て / プライバシー意識 / 住宅計画論 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度は、本研究で「開放型の住まい方」として位置付けた住まい方のうち、我が国でその利用実態が不明瞭であった子育て層における自宅での保育・家事サービス(居宅訪問型保育)の享受を研究対象とした。 具体的には、東京都心より約50km圏の鉄道沿線上に位置するA市で展開される、ファミリー・サポート・センター事業を対象とした。当事業を運営するA市社会福祉協議会の協力を得て、①2年間の活動記録(各世帯のサービス利用日時・場所・世帯属性等)のほか、「A市の共催」で実施した②利用会員へのアンケート調査、および③協力会員へのヒアリング調査の計3種のデータを収集した。これらデータの統計分析に基づき、次の3点を明らかにした。 1)居宅訪問型保育の利用パタンと必要とされる背景:利用時の親の在宅状況と母親の就業別に、利用パタンに違いがある事を示した。またその背景には、祖父母世帯からのサポートを容易に得られない事に加え、3歳未満で集団保育が憚られる幼児の保育や、既存保育施設の時間外の利用で二重保育を避ける事からくるニーズがある事を示した。 2)サービスが展開される場の特性と利用前の行動パタン:概ねリビング・ダイニングを中心に展開されており、利用前には片付けや貴重品を含む物の移動、見られくない部屋の戸を閉める、の準備行動が行われている。ただし中には、“特に何もしない”例もあり、集合住宅フラットかつ居室数の少ない住戸に相対的に多い事がわかった。 3)プライバシー意識と住空間構成の関係:プライバシーを確保しやすいと思われる2階建てを中心とした住戸タイプにおいて、より、プライバシーに問題があるとする層が多く認められた。この一般的認識とは異なる結果について、アルトマンの理論(プライバシーを要求水準と達成水準とに分け、両者が均衡する状態をプライバシーの最適化とみる)を応用する事で、そのメカニズムを説明できる事がわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
調査対象の中でも、住宅研究分野においてこれまでに着目されていなかった子育て層における自宅でのサービス利用について、詳細データを入手する事ができ、かつサービスの利用実態と住空間構成との関係について明らかにするという、一定の成果をあげる事ができた。 また、サービス利用におけるプライバシー意識と住空間構成との関係については、一般的認識とは異なる調査結果を得る事ができている。そしてこれを指摘するのみにとどまらず、過去に示されたプライバシーの理論を応用する事で、本調査結果のメカニズムを解明する事ができており、これによって、研究全体の仮説を組み立てる作業を達成できている。 なお、以上に基づいて執筆している審査付き論文1本、および学会発表論文3本を、平成27年4月上旬に投稿できる予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度は、①居宅訪問型保育サービス利用者への追加調査、および②高齢者向け在宅福祉サービス利用者への調査を通して、下記を明らかにする。なお、いずれも引き続き東京都心郊外のA市を主な対象とする予定である。 1)サービス享受のし易さと間取りの関係性の解明:住空間についての分析は、フラットか2階建てなのかと、居室数との関係性にとどまっている。そこで、利用者宅への訪問調査による間取りの採取と詳細なインタビュー調査を通して、サービス享受のし易さと間取りの関係性について解明する。 2)“プライバシーの過剰(孤立)”の実証とこれに対応しうる住空間の要件の検証:サービス享受におけるプライバシー意識について、サービス提供者という第三者に対して、家族の“知られたくない情報を隠したい”という要求がある一方で、“知ってほしい・見てほしいのに隠されすぎている”という状況もあり得るという仮説が得られている。①、②の調査を工夫する事で、この“プライバシーの過剰(孤立)”を実証し、またこれを解決しうる空間要件について、提案検証調査等を通して明らかにする。 3)郊外住宅地の持続再生におけるソーシャルミックスの効果についての考察:持続可能な住宅計画論の構築においては、住戸単体のみならず、住宅地の全体構成の観点からの理論の構築が必要である。これまでの調査において、サービス利用者には一戸建てのみならず、アパートタイプの賃貸型集合住宅に住まう層の利用も一定数存在する事、一方、サービス提供側は主に一戸建て持ち家層である事がわかっている。理念的にはソーシャルミックスの必要性が指摘されてはいるものの、その具体的効果については不明瞭である。そこで、A市での一連の調査をもとに、「開放型の住まい方」を支えうる住戸タイプと居住階層の関係性について明らかにする事で、住宅地計画の視点からも本理論を深化させる。
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