2014 Fiscal Year Annual Research Report
ポスト・モダンの大学における「教養」の意義 -教養主義に関する政治哲学的再検討
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14J40153
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
藤本 夕衣 慶應義塾大学, 文学部, 特別研究員(RPD)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 教養主義 / 教養 / エリート主義 / 学生文化 |
Outline of Annual Research Achievements |
考察目的:教養主義批判の歴史的展開を考察し、教養論における課題を明らかにする。概要:大正期以降ひろまったとされる「教養主義」(=学問や芸術を通じて人格の向上を目指す態度)に関して、それへの批判がどのように歴史的に展開したのかを考察した。
①戦前:大正期は、阿部次郎の『三太郎の日記』に代表されるような、読書を通じた人格形成としての教養が、旧制高校生を中心に広まった。その後、教養主義批判の典型として引用される三木清の『読書遍歴』も戦前に展開されている。大正後期には、マルクス主義の興隆に伴い、そうした教養は批判に晒されるものの、当時は、教養主義という概念は用いられず「人格主義」が批判されていた。阿部も三木もともに教養という概念は用いているが、教養主義という概念は用いていない。 ②1940年代~1950年代:戦後は、丸山真男の悔恨共同体論に象徴されるように、戦前の知識人への反省という文脈において、その知識人の教養主義が批判されるようになる。主に、社会科学を重視する立場から、その言説の科学性の欠如が問題されるとともに、旧制高校の教養は、新制大学が創設に伴い、エリート的なものであるとみなされるようになる。こうしたなか、唐木順三の『現代史への試み』における教養派批判が、教養主義批判の代表的言説とみなされるようになる。 ③1960年代~1980年代:1960年代に、学生運動が活発化する時代になると戦前への批判が、自己批判としてではなく、過去のエリート主義的な知識人の在り方を象徴するものとして「教養主義」の言説が位置づけられ、それとともに、哲学史や日本文化史などの通史において、「教養主義」が「文化主義」などと並ぶ、大正期の一思想として位置づけられるようになる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
今年度の目的は ①教養主義の歴史的展開を整理したうえで、その変遷を考察すること ②そのうえで阿部次郎の教養論を再考すること この二つを目標として掲げていた。
①は、達成し、教育哲学会において報告した。さらに、①に取り組む中で、教養主義批判、教養論の展開のなかで、唐木順三の『現代史への試み』において提示されている枠組みが、非常に大きな影響力をもっていること、しかしにもかかわらず、それが精読されておらず、唐木の批判が表面的な形で流布しているという問題が見出された。したがって、当初、研究目的とした②に取り組む前に、唐木の教養論の再読に着手することになった。当初の計画外の課題が見出されたが、唐木も阿部次郎を教養派の典型例として引用しており、当初掲げていた②の課題にも関わらせながら、新たな課題にも取り組みつつ研究を進めることができている。
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Strategy for Future Research Activity |
2.唐木順三の『現代史への試み』の再読(岩波講座『現代』第八巻(平成27年度6月末締切)に発表予定) 以上のような展開を考察するなかで、戦後直後に展開された唐木順三による「教養派」批判が、教養主義批判の言説において多大な影響力をもっていること、にもかかわらず詳細が理解されないまま、一面的に唐木の議論が受容されていることが推測され、以下の研究に取り組んだ。 ・唐木順三の「教養派」批判の背後にある「反近代の思想」の理解 唐木順三は『現代史への試み』において、大正期の「教養派」への批判を展開した。阿部次郎の『三太郎の日記』をその一見本として取り上げている。しかし、通常、教養主義批判の文脈で、唐木のこの批判が引用される場合は、唐木が反近代の思想を展開するなかで、教養派を批判したこと、あるいはニヒリズムの問題に取り組んでいた事など、その背後にある思想が踏まえられていない。そのために唐木の批判は、大正期の一時代に対する批判として理解されている。しかし、文芸批評などにおける唐木論を手掛かりにしながら、唐木が「反近代」という問題に取り組んでいたことを踏まえると、唐木が教養派に対して向けた批判は、日本の近代化に伴う問題であること、それゆえ現代の教養の問題、さらには大学の問題を考えるときにも向き合うべき課題を提示されていることが予想される。
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Research Products
(8 results)