2016 Fiscal Year Annual Research Report
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14J40163
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
坪田=中西 美貴 上智大学, 総合グローバル学部, 特別研究員(RPD)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 民族 / ポスト・コロニアル / 民主化 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は現在的な意味で台湾先住民がどのように「生き」られているのかについて、台湾先住民の表象から考察を行った。 台湾先住民を用いた対外向け台湾の表象は、1990年代から現在に至るまで、観光の領域で多く見られる。2000年以降は客家もまた多文化を有する台湾らしさとして、台湾を表象する際に用いられている。しかし、この台湾らしさをアピールする重要な場として認識されている国際空港において、台湾先住民が取り上げられている量に比べると、客家のそれは非常に少ない。漢人系の一集団として認識されている客家ではなく、全く異なる文化や血統を持つと思われている台湾先住民を用いることに戦略的意味があることが明確になった。 しかし誰を対象にした対外表象なのかを考察したところ、欧米人向けと思われる英語での紹介の多さに比べ、東アジアおよび東南アジアからの観光客向けの台湾案内に登場する台湾先住民の割合は低い。このことは、西洋的な視線でもって、「正しい」多文化表象を行っているためと思われる。 国家のレベルだけでなく、一般社会においても多文化共生社会という台湾像の受容は高まっている。それは、近年の台湾映画が隆盛であることからもうかがうことができる。映画という文化の表象においてだけでなく、近年の世論調査でも、中国人としてではない、台湾人アイデンティティを表明する人びとの割合が高まっている。 その理由を考察したところ、多文化性と台湾人アイデンティティの高まりは、中国との経済関係と強い関係性を有していることが明らかになった。なかでも、台湾先住民およびその文化の受け入れは、国内失業率との関係性が浮かび上がった。以上のことから、「正しい」行為としての台湾先住民の受け入れが、国内の民族問題としてだけではなく、対外関係によっても左右される側面を有していることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度に引き続き、現在の台湾における台湾先住民の位置を問う研究を行った。今年度はネーションのレベルにおける先住民の表象を取り上げた。日本統治期には、先住民という民族を生きることが社会の周縁に生きるという意味を持ち、そのことは戦後の台湾社会でも大きく変化してこなかった。しかし台湾の民主化の進展および対中国関係の変容は、台湾内の民族関係を変化させてきた。さらにその過程において、先住民を「生きる」ことの意味が、少なくとも表象レベルにおいては周縁から中心へと、戦略的に取り込まれていった様子が明らかになった。 以上のことから、研究がおおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
現在の台湾において、「正しい」とされる選択は、西洋的な基準に基づいている。台湾で昨年より本格的に開始した「移行期正義」についても、国内問題であると同時に、西洋基準に照らし合わせて、より民主的な国家を形成したいという、他者の視線の問題を有していると考えられる。 このことを考慮に入れると、台湾において台湾先住民を「生きる」ことの意味は、国内において意味を持つだけでなく、国外においても有意でなければならないことになる。 台湾先住民の社会的地位を改める問題は、それが日本統治期の統治構造および日本の統治形態を引き継いだ国民党政権の統治構造を問い直す、ポスト・コロニアルな問題である。しかしながら現在的な意味での民族の社会的意味の変容を求める動きは、過去に起因しているだけでなく、現在における経済的な問題も関係していることが明らかになった。 そこで、先住民に限らず、マイノリティとして生きることの意味を、現在の台湾およびグローバルな社会の中に位置付けて問い直すことが、今後の研究において必要と思われる。
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Research Products
(1 results)