2003 Fiscal Year Annual Research Report
理数科の卓越した「才能」獲得に作用する文化・社会的環境要因の分析
Project/Area Number |
15020208
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
北村 勝朗 東北大学, 大学院・教育情報学研究部, 助教授 (50195286)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
生田 久実子 東北大学, 大学院・教育学研究科, 教授 (80212744)
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Keywords | 理数科 / 才能 / 環境要因 / 定性的分析 |
Research Abstract |
今年度は,理数科領域で卓越したパフオーマンスを発揮する,いわゆるエキスパートと呼ばれる人々を対象とし,彼ら彼女らはどのような文化・社会的な環境の影響を受けて才能を開花させたのかについて,遡及的かつ定性的な調査・分析を実施した.調査対象者は,次の基準により選定を行った.1)理数科の領域で国際的に評価の高い賞を受賞した経験を持つ,2)理数科系分野の学会・協会等の専門家組織によって卓越した専門的能力を持つとの推薦を得ている研究者・技術者.以上の基準から選ばれた候補者の中から10名の研究者から協力が得られ,調査を実施した.調査は深層的(in-depth)・自由回答的(open-ended)・半構造的(semi-structured)インタビューにより実施し,インタビューの平均時間は約80分であった.インタビューは本人の承諾を得た上で全て録音され,テキスト化され,定性的データ分析法により階層的カテゴリー化が進められた. 分析の結果,471の意味単位から352の意味単位が分析の対象とされ,その結果,「のめりこむ過程および状態を楽しむ体験(involvement)」のカテゴリーが理数科の才能獲得過程の構成要素として作成された.また,次の4つのサブカテゴリーがinvolvementのカテゴリーを構成する要素として作成された.1)支援的環境の享受:全ての対象者が時代的,社今的,地理的,教育的な環境と関わる中であるがままの環境刺激を享受,利用しながら,同時に注意をひきつけられ,かかわりを引き出されている.2)きっかけによる外的世界の捉えなおし:様々な背景の中で,理数科へ傾倒していくきっかけとなる体験に出会うことにより,対象者自身が外的世界を捉えなおすことで,積極的に理数科領域への志向性が引き出されている.3)自らの問題としての引きつけ:理数科領域へのかかわりの中で,次第に自らの問題として疑問を持ち,解決・説明・理解を目指している.および4)わかるレベルの深化:理数科領域のおもしろさの蓄積が進む中で,より多くの知識や技能の獲得によってわかるレベルが深まっていき,更なるのめりこみが展開されていく. 理数科領域の熟達化は,現存する環境との相互作用の中で得られたきっかけによりおもしろさに触れる体験を蓄積することによって展開されている.こうした体験の蓄積には,学校内外での個々人を取り巻く人的物的状況といっ文化・社会的環境要因が大きく影響を与えている.次年度は,小中高の生徒を対象に,理数科領域を視野に入れた学校内外での体験を現在進行形で描写する計画である.
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