Research Abstract |
1.胎生期ストレス負荷ラットにおける大脳辺縁系発達の解剖学的検索:生後8日目(P8)のラットの脳および末梢臓器の湿重量,体重を胎生期ストレス負荷群と対照群で比較した。その結果,ストレス負荷群では対照群に比べ,脳,胸腺,脾臓,および腎臓の絶対湿重量と体重が有意に小さかった。P8ラットの前部帯状皮質の面積は,胎生期ストレス負荷群で有意に小さかった。また,チロシン水酸化酵素(TH)免疫組織化学により,胎生期ストレス負荷群では前部帯状皮質のTH陽性線維およびバリコースが減少することが明らかになった。青斑核のTH陽性ニューロンの免疫反応性が低く,線条体と中脳では差が認められなかったことから,前部帯状皮質におけるノルアドレナリン神経の発達障害が示唆された。また,P8ラットの扁桃体の面積は,胎生期ストレス負荷群で大きい傾向が認められた。 2.生後初期における運動機能の発達に対する胎生期ストレスの影響:生後1-14日までのラットを用いて傾斜版テストおよび遊泳テストを行い,各群の動物における運動発達特性を比較した。その結果,胎生期ストレス負荷群では,傾斜板テストでの体軸回旋の潜時の延長および遊泳テストでの前後肢の協調運動性や前後肢の体幹への引き寄せ発現時期の遅延が見られた。 3.成ラットの情動・記憶機能に対する胎生期ストレスの影響:情動・記憶機能を明らかにするために,当教室で独自に開発した場所学習課題をテストした。報酬刺激の電流強度は,対照群とストレス負荷群とで差がないことから,報酬獲得行動あるいは動機付け行動そのものには影響がないことが明らかになった。ストレス負荷群では,課題試行中に移動を休止するという行動の途絶が認められ,場所学習課題の学習が有意に障害された。このような現象は,不安の亢進や帯状回の破壊でしばしば認められる現象であり,大脳辺縁系に何らかの機能異常が生じていることが示唆された。さらにストレス負荷群では,情動性の指標となる高輝度条件下驚愕反応の強度が増加することが明らかになった。
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