Research Abstract |
今年度は,(1)アイヌ文化・社会の定義の再検討と(2)オホーツク文化の担い手・集団の解明を中心に取り組んだ。 前者では,鉄鍋や鉄鋼製品,木製品,ガラス玉について収集・分析を進めた。鉄鍋については14世紀半ば以降の製作地として能登仲居が推定できた。厚真町モイ遺跡のアイヌ期住居の年代査定では13世紀以降の中世と近世の2時期を抽出できた。ガラス玉では,北海道への4つの流入ルートが押さえられた。木製品では4367点の資料を206種の分類体系にまとめ分析した結果,中世と近世の間に大きな飛躍が捉えられた。 一方,鉄器の普及に関しては,北海道と東北では擦文期後半に格差があることが判明した。地域間関係では,交易活動の活発化に伴って成立した擦文地域集団が中世アイヌに引き継がれ,日本海北部集団はサハリンアイヌの母体となったとの見方が出された。道北のチャシは古代に遡る可能性が指摘され,サハリンと北海道をつなぐ機能が想定されている。土器の中間的属性分析の結果から,道央と道南が擦文土器成立当初から比較的疎遠な関係であったことが捉えられた。他方,浜大樹2遺跡の竪穴住居祉の14C年代では10C後半〜11C前半となり,道東部太平洋側への擦文文化の波及という点で注目される。 オホーツク文化の担い手・集団の解明については,7月に「国際シンポジウム骨から探るオホーツク人の生活とルーツ」を実施した。特に,形態小変異の解析からオホーツク人の道北・道東2グループの地域的・集団的違いが指摘され,古代DNA分析から,オホーツク人がニヴフやウリチに近縁であることが示された。考古学では,道東部と道北部のオホーツク集団が,成立当初からの文化的違いを背景にした複数集団により成立した可能性が指摘された。 クマ送り儀礼に関する研究では,動物学,植物学,昆虫学,民族学,考古学,日本史学,文学,自然保護の専門家からなる『ヒグマ学入門』を上梓した。
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