Research Abstract |
本研究では,電子間の強いクーロン相互作用によって電荷ギャップが形成された有機モット絶縁体などの有機半導体を対象として,これをチャネルとする電界効果型トランジスタ(FET)を構築し,有機半導体界面への電界効果ドーピングにもとつく新しいデバイス物理の開拓を目的とした。この目的のため,異種分子間に生じる分子間電荷移動などにより有機半導体界面を高機能化する要素技術の開発にも取り組んだ。さらにこれら要素技術を,有機トランジスタの高度化のために活用する研究へと大きく展開した。特に本年度は,昨年度着手した電子スピン共鳴(ESR)を用いた有機トランジスタ内の界面キャリヤ輸送の微視的研究をさらに発展させて,ゲート電圧によってチャネル内に誘起したキャリヤのESRスペクトルに関する詳細な議論を行った。得られたESRスペクトルは,温度,ゲート電圧によらず,いずれも単一のローレンヅ型曲線と良い一致を示したが,その線幅は電圧増加,及び温度上昇とともに尖鋭化していく挙動が明瞭に観測された。これによりESRスペクトルの線幅が,運動による尖鋭化によって決定されていること,またその解析からキャリヤの各分子での平均滞在時間が約1nsときわめて長く,電界誘起したキャリヤの伝導機構がトラップにより支配されたものであることが結論された。さらにこれらの挙動についての解析をもとに,バンド端近傍のトラップ準位のエネルギー分布に関する知見が得られた。以上の結果を踏まえ,特定領域研究の全期間にわたって得られた成果,すわなち(1)有機モット絶縁体における両極性キャリヤ注入,(2)有機半導体薄膜の界面エンジニアリングとドーピング制御,(3)分子性導体を用いた機能性電極技術の原理実証,(4)分子性導体薄膜のインクジェット印刷,(5)テトラチアフルバレン系高移動度チャネル材料の開発,などのて研究成果を総括し,総合的な議論を行った。
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