Research Abstract |
本年度は,極低温および強磁場下X線測定システムの設計を行い,購入物品を組み合わせて,X線測定システムの立ち上げをおこなった。世界にも例を見ない,カメラ法による強磁場下システムは現在立ち上げ中であるが,極低温下X線測定システムは既に順調に動き出しており,室温から15Kまでの温度領域で,迅速かつ高精度衛星反射測定や精密構造解析が可能になった。その結果として,以下の実験的な知見が得られ,当該分野の進展に寄与した。 1.θ型有機導体の金属絶縁体転移と電荷配列 θ型有機導体では超伝導相の近隣に金属絶縁体転移相境界があるが,この転移の成因は長い間謎であった。低温構造解析の結果が報告されていたが,低温での絶縁体化を説明する物ではなかった。一方,光学的な研究や磁気共鳴による研究により,この物質では,電荷を帯びた分子と,中性の分子に分離するという電荷分離が絶縁相で形成されるという知見が得られてきたが,これらの手法から得られるのは短距離の相関であり,長距離秩序が成長している証拠はなかった。低温での衛星反射探索と精密構造解析をおこない,この結果,いわゆる水平ストライプ型の電荷配列が絶縁相で形成されていることを見いだした。つまり電荷が存在する分子の並びは,分子のスタックと垂直である事を見いだした。 2.(TTM-TTP)I_3の物性変化と2種類の変調構造 一次元系固有の現象であるスピン電荷分離の可能性がある(TTM-TTP)I_3で,微弱な複数の24変調による超格子反射を観測した。さらにこの超格子を含めた精密構造解析をおこない,抵抗上昇の起こる温度での超格子構造と磁化率減少の起こる温度での超格子構造から,それぞれの成因を議論し,違う温度で抵抗と磁化率の変化が起こる説明を与えた。 3.DMET-TSeF塩での超格子構造と電子構造 低温まで金属であるDMET-TSeF塩で室温での結晶構造と,低温での量子振動の結果が良く一致しなかった。低温で微弱な衛星反射信号を検出し,低温での量子振動は,変調構造によるフェルミ面の折りたたみ効果によることを示した。 4.バナジウムブロンズの変調構造と物性変化 低温で,表題物質の多数な変調構造を精密X線測定により観測し,その温度変化,時間変化を精密に測定した。その変調構造のの内,一種類の変調が,特に抵抗の上昇と磁化率の減少に寄与していることを見いだした。 5.τ型有機導体での散漫散乱と超格子構造 有機物で,遍歴強磁性を示すτ型物質の,磁場ヒステリシスを伴う複雑な磁気抵抗の起因となる変調構造を発見した。 6.α型有機導体の電荷配列 135Kで金属絶縁体転移を起こすα-(BEDT-TTF)_2I_3の低温構造解析をおこない,金属相では分子上の電荷量がほぼ均一であるが,絶縁相では水平ストライプ電荷配列が生じており,最近接クーロン反発の影響が顕著であることを示した。
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