Research Abstract |
10Tという国内でも最高レベルの強磁場下極低温X線装置を開発し測定をおこなった。この装置の特徴は,1)高感度写真法であり2次元的な情報が素早く手に入る,2)強磁場下極低温下という極端条件下にもかかわらず高S/Nである,の両方である。1)の特徴は低次元分子性導体のような,様々な波数,つまり予測不能な波数の変調構造が現れ,それが電子状態に大きな影響を及ぼす系の構造科学研究にとって不可欠の装置となる。しかし写真法では低温冷却装置や超伝導磁石の窓からの散乱を効果的に抑える手段がなく,これまでは,残念ながら1)と2)との両立はきわめて難しく適当な装置が存在しなかった。 本研究では,180度発想を転換し,窓なしのドーナツ型の超伝導磁石を採用した。この結果,試料位置(磁場中心)はドーナツの中にあり,X線を直接試料に照射する事が出来る。これにヘリウムクライオスタットを組み合わせ,世界初の高S/N低温強磁場X線振動カメラを実現した。このX線カメラでは,ヘリウムガス以外にノイズ源がないため,一般の低温X線カメラよりも低ノイズで,高精度構造解析や変調構造観測が充分可能になる。このことを検証するために,磁場下で量子ホール効果に類似した特徴を示す低次元物質η-Mo4011のX線散漫散乱写真を撮影した所,CDW形成に伴う衛星反射を観測した。また,更に高感度の散漫散乱カメラを開発し,磁場印加により非金属金属転移が起こる,EU_<1-x>Sr_xMnO_3で,極低温強磁場下で転移に伴う構造変化などを観測している。 この他,有機物できわめて興味深い磁性を持つ物質,例えばカゴメ格子反強磁性体の構造変化と磁性との相関,有機物で遍歴強磁性を示すτ型の変調構造と電子状態との相関,などを高感度X線回折法を中心とした手法で詳しく調べた。
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