Research Abstract |
始原生殖細胞(PGC)は,生殖系列の最初の細胞として原腸胚の尿膜基部に現れるが,周囲の体細胞とは大きく異なり,むしろ初期胚の細胞によく似た形質を持っている.例えば,PGCからはEG細胞と呼ばれるES細胞と非常によく似た多能性幹細胞が樹立できる.また,PGCでは発生過程で蓄積されたゲノム修飾がリセットされることが知られている.したがって,PGCは胚性幹細胞の起源や特性,ゲノム再プログラム化現象を解析するための好個の材料ということが出来る.しかし,そのような重要性にも関わらず,その分子レベルの実体は未知な点が多い.そこで我々はPGCを純化する方法を確立し,そこに発現する遺伝子の包括的な発現解析を行ってきた.これまで,PGC特異的cDNAライブラリーから18,293のESTを取得し6,159の転写産物,4,833の遺伝子に分類した.ESTの出現頻度から抽出された各種幹細胞の‘signature genes'とPGC発現遺伝子の比較を行ったところ,PGCは未分化ES細胞よりも,むしろblastocystやTS細胞に類似しているとの結果を得た. 次に,マイクロアレイ解析により,ES細胞,EG細胞,in vitroで形成されたMvh陽性のPGC様細胞の遺伝子発現プロファイルを得て,PGCの発現プロファイルとの比較を行った.EG細胞はPGCに由来する細胞であるが,ES細胞と非常によく似た発現プロファイルを持っていた.対して,PGCはES細胞とは大きく異なるプロファイルを持ち,例えば,ES細胞と13.5日胚より得られたPGCでは,調べた2万余の遺伝子のうち,約17%が有意に変動しており,始原生殖細胞形成過程ではダイナミックな遺伝子発現プログラムの変化が起きていることが示唆された.
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