Research Abstract |
東北タイのサケラートにある落葉フタバガキ林において,乾季と雨季のフェノロジーを観察するとともに,材の水素同位体比から根茎の深さを推定し,フタバガキを中心とする樹種の水利用について調べた.フェノロジーと根の深さ,樹液流特性に基づいて落葉フタバガキ林の樹種は以下の4つに分類できた:1)常緑・深根性タイプ,2)落葉・深根性タイプ,3)落葉・浅根性タイプ,4)低蒸散タイプ.深根性の樹種は乾季にも安定して水が供給でき,エンボリズムの危険性も低いと考えられ,水輸送効率の良い太い道管を持つことができると考えられる.一方,浅根性の樹種はエンボリズムの危険性が少ないと考えられる細い道管を密に持っていた.低蒸散タイプに分類されたフタバガキ科樹種はどれも比較的太い道管を持ち,その中でもやや根が浅いと考えられるD.intricatusとS.siamensisは落葉,開花ともに他の樹種より早く起こった.一方,フタバガキ科樹種で一番根が深いと推測されたS.roxburghiiは落葉期間が短かった.フェノロジーと樹木の根の深さ,樹液流,材,葉の特性など樹木の水分生理は密接に関係しており,乾燥に対する適応戦略は樹種により様々であった. キナバル山の堆積岩起源の低地林(標高約600m)と山地林(標高約1600m)の林冠構成種(低地林11種,山地林12種)を対象とし,材の容積密度,木部構造として,道管1個あたりの平均内腔面積,単位面積あたりの道管分布数,単位面積あたりの道管の占有率を測定した.その結果,低地林と山地林の標高間の比較では,材の容積密度は低地林で低く,山地林で高い傾向にあった.低地林では高い樹高にも関わらず,多様な材密度を持つ樹種で林冠が構成されていることが分かった.一方,山地林では材密度頻度分布が高い値に収斂した傾向がみられた.この関係は,これまでキナバル山で報告されている種多様性の変化と対応しており,種と材容積密度の多様性が結びついていることが分かった.
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