Research Abstract |
ヒトの"こころ"の科学的解明は、21世紀の人類に残されたFinal Frontiersであるといわれ,多くの研究者が,この学際的課題に果敢にチャレンジしている.特に,代表的な手法である,EEG,MEG,fMRI計測,光トポグラフィ等による感性に係る脳機能解明に対するアプローチは,ヒトのこころの治療を実現し得る一手法として非常に重要であると考えられる.特に,脳波(EEG)測定装置は,技術の進歩に伴い,医用施設だけではなく,ホームユースへと使用環境も拡大しつつある.そのような状況の中で,重要な生体信号の一つである脳波を数理統計的手法で解析し,ヒトの感性や脳の知的働きがこれまで国内外で精力的に研究されてきたが,カオス・フラクタル理論に基づいた数理的解析は,これまで殆ど報告されていない. 上記の観点から,本研究では,平成15年度研究計画書に基づいて,以下の2項目について研究を実施し,幾つかの成果を挙げた. 1)従来の時間依存フラクタル次元の定量化においては,時間に関する分解能と評価された次元の精度は相容れない条件とされてきた.即ち,時間分解能を高くしようとすると,解析データ点数(アトラクタの点数)を多くとれず,結果としてアトラクタのフラクタル次元を求めるために例えば相関次元で評価した場合,フラクタル次元の値の信頼性は十分に確保されないそこで,生体信号を非整数階の微分処理を行い,ガウスランダム雑音w(t)をリファレンスとした最尤推定を行うことにより十分な精度を確保することに成功した.実際,数百点程度のデータ点数があれば,十分な精度が確認されるので,1〜10kHz程度でデータ収集ができれば,100msec以下の時間分解能が実現されることを予備実験で確認した. 2)これまで進めてきたカオス・フラクタル解析手法の感性情報処理への適用に加えて,事象関連電位(ERP)とそのフラクタル性に関する解析を行った.これまでの実験・解析結果では,四則演算や記憶した言葉の暗唱を行った場合には,タスクを課した場合において,ニューロンパルス密度上昇に伴い,各部位の脳波信号のフラクタル次元の上昇が認められており,このことから,EEGと光トポグラフィ測定の両面より脳の部位とその機能解明についての工学的な基盤が築かれたことは意義深いと考えられる.
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