Research Abstract |
本研究では,精神疾患患者および健常生徒を対象として,生態学的・経時的測定装置を用いて心身症状,認知機能,身体活動の測定を行い,気分や各疾患の特徴を抽出可能とする身体活動パターンの評価指標の開発を試みた. (1)精神疾患患者調査(うつ病15名,緊張性頭痛患者45名) λ(時系列の間欠性を表す指標であり,λが大きい程時系列はon-offのバースト状のパターンを示し,その確率密度関数の形状はガウス分布から乖離する)に基づき,うつ病患者と緊張性頭痛患者の頭痛発症時,非発症時(健常時)の身体活動パターンの評価を行ったところ,これら全てのケースにおいて分布は非ガウス性を示した.特にうつ病患者は高い非ガウス性を示し,緊張性頭痛患者においても頭痛時は非頭痛時に比べてλ値が高く,身体活動パターンがより間欠的な傾向を示した. (2)中学/高校生調査(50名) 各テストの2時間前の身体活動時系列データおよび長期的変動成分を除去したデータより,高次モーメントまでを含む各種統計量を抽出し,主観的な気分・疲労感との相関関係を検討したところ,平均値や歪度と「疲労」や「抑うつ」,「否定的な気分」などとの間に有意な相関関係を確認した.特に,「疲労」と身体活動パターンとの相関は顕著であり,平均値とは正の相関(r=0.32),歪度とは負の相関(r=-0.46)を得た.これらの結果は,気分と身体活動パターンとの間に有意な相関関係が存在することを示すものである。 次に,「疲労」の程度を身体活動データの特徴量から推定するために,有意な差が得られた統計量を用いて重回帰モデルを構築した.その結果,平均値,局所平均値まわりの分散およびそれらの交互作用において有意な結果が得られ,重回帰モデルの重相関係数はr=0.46であった.特に,平均値と分散値の交互作用の有意性が高く,活動量(平均値)とその周りの変動成分(分散)との組み合わせが主観的な「疲労」を説明するのに重要な要素であることが示唆された.活動量が多いがバラツキが大きな場合,その後の疲労感が高かった.このことは,疲労という主観的な症状に対応する客観的な兆候の存在を身体活動パターンの分析により明らかに出来る可能性を示唆するものである.
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