2006 Fiscal Year Annual Research Report
伝統工芸における技術習得の認知的過程と技能の効果的な伝承方法の研究
Project/Area Number |
15300277
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
林部 敬吉 静岡大学, 情報学部, 教授 (20023624)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
阿部 圭一 愛知工業大学, 経営情報科学部, 教授 (80022193)
雨宮 正彦 静岡大学, 情報学部, 教授 (00281056)
ウイルキンソン ヴァレリ 静岡大学, 情報学部, 教授 (40240626)
松王 政浩 北海道大学, 大学院・理学研究科, 教授 (60333499)
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Keywords | 伝統工芸技能 / 伝承メモ / 事業協同組合方式 / 後継者育成事業 / 継承ノート / 技能伝承の循環 / 技能の伝承方法 / わざことば |
Research Abstract |
本年度の研究では、第一に事業協同組合方式による後継者育成事業としては、所期の目的を達成している那覇市の那覇伝統織物事業協同組合、および喜如嘉芭蕉布事業協同組合を取材調査した。その結果、次のような知見を得た。 (1)沖縄では、観光ブームの影響を受けて観光客の沖縄の伝統工芸品に対する需要は予想をはるかに超え、生産が追いつかない状況にあること。 (2)需要に応えるためには「わざ」を持った職人を増やすしかないが、職人を目指す若い希望者も少なくないこと。 (3)育成事業も順調に進んでいること。 このように、伝統工芸の「わざ」を後世に伝えていくための後継者育成事業は、他の都道府県のそれと大きな違いはないが、沖縄では一定の成果を挙げている。これは、他地域と異なり、後継者をひきつける需要があり、職人としての生活が成り立つことにある。 第二に、企業における技能伝承の効果的な方式についてのモデルを提示した。これは、楽器製造企業での取り組みを調査した結果にもとづいて作成したものである。その要点は次のようである。 企業における「わざ」の伝承は、師弟相伝といった形で成されている。これは、一種の徒弟方式で技能の熟練者と技能の継承者が相互信頼に基づく相互啓発の中で行われる。この場合、技能の熟練者の模範を継承者は観察・模倣することが暗黙知である技能伝承の基本となるが、弟子の暗黙知理解を助けるものとして「伝承メモ」(熟練者)と「継承ノート」(継承者)を介在させることが重要である。 「伝承メモ」とは、教えるべき事柄を工程に沿って整理し、図あるいは「わざことば」で記述したものである。「わざことば」は、技能の枢要な事項を比楡的あるいは示唆的に表現したもので、それ自体が技能の内容を余すところなく記述したものではないが、しかし技能上達のヒントともなるべきものである。 「継承ノート」は継承者が熟練者の教えを覚え書きしたもので、自分流に図あるいはことばで記述される。ここには、技能の観察や模倣で感じたこと、あるいは自分で工夫したことなどが書き込まれる。 「伝承メモ」と「継承ノート」との間に技能伝承に関する循環が発生した時に、高度な技能が熟練者から継承者へと伝承される。
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Research Products
(3 results)