Research Abstract |
本年度は3ヵ年の計画の最終年度であり,これまで収集したデータの分析,海外での補足調査と海外研究協力者と研究成果の評価に関する議論,国際学会での報告の3点をおこなった。第1のデータの分析については購入した統計データについては統計解析ソフトと用いた分析を,聞き取り調査に関しては,調査結果を他の研究者も利用可能な形式に整理するとともに,GIS(地理情報システム)ソフトを用いて,地図上で利用できるようにした。第2の海外補足調査は,ラオスにおいて,従来の聞き取り調査に加えて,現地の学生の協力を仰いで,数百人規模のアンケート調査を実施した。また,タイのチュラロンコン大学,コンケン大学,国際連合アジア太平洋経済社会委員会の専門家と情報交換をおこなった。第3点に関しては,東京で行われた国際地理学会の都市地理学コミッションの会合およびフランスで行われた国際人口学会大会で研究成果を報告した。 タイを中心としたラオス,ミャンマー,カンボジア地域の人口移動を,とくに女性に注目して考えたとき,以下のような点が今年度の研究から明らかになった。すべての関係国において近年のグローバル化のもとで経済発展を実現している。国を単位としてみると,タイではなく,後発ゆえに周辺国の経済成長率が高くなっている。ただし,実質的にはタイと周辺国の格差は縮小しているとは言えず,また,より小さな地域スケールでみると,各国の国内地域格差が拡大傾向にある。というのも,バンコク周辺地域周辺地域をのぞき,この地域全体での海外からの直接投資はそれほど進んではおらず,タイ国内ではバンコク周辺地域,周辺国からみるとタイに就業機会が集中している。一方,出生率の低下はバンコク周辺部,その他のタイ,周辺国の順に生じた。結果として,1990年代はタイ国内での労働需給の地域的なアンバランスが大きく,タイ国内でのバンコク周辺地域への労働力移動が続いた。しかし,2000年以降は,バンコク周辺地域以外でも製造業の進出も少しずつ進むとともに,出生率低下による労働力への新規参入人口が減少しているため,かつてのような全体的な若年人口流出ではなく,高学歴人口,あるいは依然としてバンコクで必要とされる女性人口などの選択的な流出と変化している。一方,経済発展のさなかのラオス等周辺国では貨幣経済の進展,テレビなどによる情報の普及,出生率低下の遅れによる豊富な若年労働力の存在によって,タイを目的国とする国境をこえた様々(女性や子どもの人身売買まで含む)な人口移動が近年生じている。
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