Research Abstract |
2004年度は,2003年度から引き続き,教育における「人的資本」の問題を取り上げると同時に,2003年度に購入した「企業財務データ」を用い,「設備投資と不確実性」についても分析した。 1.「家計の教育需要の決定要因-親の教育水準と予算制約の効果」(著者:出島敬久・竹田陽介・上田貴子)(旧タイトル「衒示的消費としての教育:日本の家計に関する実証分析」) 本研究は,教育需要に関する理論モデルが,近年の日本の現実と整合的かを検証するために,(財)家計経済研究所の家計消費に関するパネルデータを利用し,教育費支出関数を推定した。子の先天的能力の代理変数として両親の教育水準を利用した上で,家計所得・資産・負債という家計の予算制約に関わる変数が教育費に与える影響が,個体固有効果に注意して推定された。その結果,流動性制約のない単純な人的投資モデルではなく,流動性制約のある人的投資モデルや,消費としての教育需要モデルと整合的であることがわかった。子の先天的能力の影響とともに,私立・公立の学校選択を正しく捉えた教育需要関数の構造型の推定が,残された研究課題である。なお,2005年度日本経済学会春季大会(京都産業大学,討論者:小塩隆士神戸大学教授)にて報告する予定である。 2.「設備投資と不確実性:上場企業の財務データと利益予測データに基づく実証研究」(著者:竹田陽介・矢嶋康次ニッセイ基礎研究所シニア・エコノミスト) 本研究では,不完全競争・規模の経済性の観点から,「供給ショック」まで拡張したモデルを提示し,日本の上場企業の財務データと市場における利益予測データを用い,実証分析を行なった。推定の結果,実質売上高・株価の変動に基づく不確実性が高まると,設備投資を縮小させる効果があるのに対して,企業の業績予想の不確実性は影響しないことがわかった。前者の効果は,日本の市場独占度の高い企業に対して,供給ショックが強く働く状況で,不確実性の高まりが設備投資を減少させたことを意味する。なお,『ニッセイ基礎研所報』2005年,Vol.36に掲載される予定である。
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