Research Abstract |
マンガンメチル錯体をトリメチルホスフィンボランの存在下で光照射すると,メタンの発生を伴って,マンガンボリル錯体が生成する.申請者はこのものにプロトン酸を作用させることで,ホウ素部位の配位様式が変化して,陽イオン性ボラン錯体が生成することを見いだした. 平成16年度には,陽イオン性ボラン錯体の化学を発展させるため,新規な合成法を用いて,ルテニウム-ボラン錯体の合成を行なった.トリメチルホスフィンボランの存在下,ルテニウム錯体CpRu(PMe_3)_2Clのクロロ配位子を,ハライド引き抜き試剤であるNa[B{3,5-C_6H_3(CF_3)_2}_4]を用いて引き抜くことにより,NaClの沈殿を伴って,新しいボラン錯体[CpRu(PMe_3)_2(η^1-BH_3・PMe_3)]^+を合成した.この錯体は結晶性固体として単離され,陽イオン性ボラン錯体としては初めて,X線回折によって分子構造を明らかにすることができた.ルテニウムボラン錯体は,室温で徐々に分解して,陽イオン性ジヒドリド錯体[CpRu(PMe_3)_2H_2]^+を与える.この分解過程は,金属に配位したBH結合の不均等解列と,それに続くルテニウム中心によるボリル陽イオンからのプロトン引き抜きを経て進行すると考えられる.このように,潜在的に電子豊富で,なおかつ正に帯電した金属フラグメントを用いることにより,従来見られなかった様式の反応が進行した.ルテニウムボラン錯体と種々の二電子供与体との反応では,ボラン配位子の置換が進行した. さらにルテニウム錯体に用いた反応をイリジウム錯体前駆体IrCl(CO)(PMe_3)_2に適用し,16電子の陽イオン性ボランシグマ錯体[Ir(CO)(PMe_3)_2(η^1LBH_3・PMe_3]^+が生成している証拠を得た.この化合物は配位不飽和であるため,金属上でボラン配位子と他の基質との前例のない反応が起こる可能性があり,興味が持たれる.
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