Research Abstract |
配位不飽和な遷移金属アルキル錯体は,触媒反応の中間体として重要な化学種であるが,16電子の平面4配位種を除くとその単離例は,極めて限られる。特にコバルトジホスフィンジアルキル錯体は,電子移動を介したHeck型反応触媒の鍵錯体として重要であるが,未だ合成例がない。そこで,比較的嵩高いフェロセンを2つもつRP-架橋[1.1]ferrocenophaneの立体保護効果を利用して,昨年度に引き続き不安定錯体の単離を試みた。 CoCl_2にリン配位子を反応させ,ジホンスフィンジクロロ錯体を合成した。この錯体にMe_3SiCH_2MgClを反応させるとR=Phでは,モノアルキル体とジアルキル体の混合物となった。この反応では,モノアルキル体の溶解度が低いため,ジアルキル体のみを得ることは困難であった。一方,R=CH_2SiMe_3では,ジアルキル体のみが得られ,その構造をX線解析で確認することが出来た。 一方,[CoCl_2(dppp)]に対してMe_3SiCH_2MgClを用いて同様のアルキル化を行うと(Me_3SiCH_2)_2の還元的脱離が進行し,ゼロ価のコバルト錯体[Co(dppp)_2]が不均化により生じた。この結果は,リン架橋[1.1]ferrocenophane配位子が単に立体保護基としてはたらくだけでなく,フェロセンの大きな電子供与性により電子的にもジアルキル錯体を安定化していることを示している。 上で合成したジアルキル錯体に対して,過剰の臭化ベンジルを反応させたところ,(PhCH_2)_2と(Me_3SiCH_2)_2が,生成することを確認した。一方,クロスカップリング生成物PhCH_2CH_2SiMe_3は,観測されなかった。この結果は,ジアルキル錯体が,臭化ベンジル1電子還元してベンジルラジカルを発生させ,ラジカル同士のカップリング生成物を与えていることを示している。ここで,得られた結果は,アルキルコバルトが触媒となったHeck型反応の反応機構に対して示唆に富むものである。
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