Research Abstract |
銅イオン交換ゼオライト(CuMFI)が,室温で窒素分子と特異的に相互作用することを見出した.本年度は,窒素吸着サイトの解明をめざし,MFI型ゼオライト中に存在する何種類かのサイトの内で窒素に対して活性であると推定できるサイトに選択的に銅イオンをイオン交換し,しかもその銅イオンの還元率を高める試料の調製を行った.この調製法を,これまでの我々の研究をベースとして,論理的に推論した.その結果,窒素に対して吸着活性であるサイトに選択的に銅イオンでイオン交換し,その約98%を一価イオンに還元することができた.この試料は窒素に対して極めて高い吸着活性を示し,ある仮定に基づいて計算された窒素吸着に有効なサイト量の92%に窒素が吸着されたことになる. この試料について,サイト選択的構造解析法であるXEOL(X-ray emission optical luminescence)法により,銅イオンの状態解析を行った.実験は成功し,高いS/N比を有するデータが得られた.現在,このデータ解析を進めている.この解析ができれば,窒素の吸着サイトの状態がはじめて明らかになる.その解析結果に基づいて,窒素吸着に活性な銅イオンの電子状態について密度汎関数法を利用して解析の予定である. また,この試料が室温で水素分子と相互作用することも見出した.この水素との相互作用もエネルギー的にも大変高く(赤外的には1000cm^<-1>もの低波数シフトを観測:本研究課題で購入したMCT搭載の赤外分光器で測定可能となった),CuMFI中の一価の銅イオンとη型の水素化合物が形成していると結論した.この吸着水素はB酸点上の-OHと室温でさえ,H-D交換反応を起こすという興味深い現象も明らかにできた.現在,この水素の吸着状態の解明を行っている. これらの特性をうまく組み合わせれば,マイルドな条件下でのアンモニア合成も夢ではないと考えている. さらに,この研究過程で,[Cu(NH_3)_2]^+錯体を用いてイオン交換し,はじめからすべてのサイトに対して一価の銅イオンでイオン交換しようとした.この実験は成功したが,予想に反し,真空中での熱処理過程で銅イオンが酸化されるという現象に出くわした.この現象は無機化学的に大変興味深く,この現象の解析を行い,共存する水分子が酸化に影響を及ぼしていることも明らかにした. CuMFIはNO分解活性の触媒として働くことがわかっているので,NO分解活性のメカニズム解析も行った.その結果,この反応において二つの銅イオンが近くに存在するという条件が極めて重要であるという結論を得た.この結果は,世界的にも注目されている. 本年は,以上のような実験を行った.本研究をゼオライトなどの骨格を触媒活性種の配位子として利用し,交換イオンの電子状態と原子レベルでの配位環境を制御した特異な反応場創製をめざした研究へと展開していきたい.
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