Research Abstract |
Y_2O_3で部分安定化したZrO_2(以下YSZ)は,低熱伝導率でかつ超合金に近い熱膨張係数を有するなどの特性から先進型ガスタービン翼の遮熱コーティング(Thermal Barrier Coating:以下TBC)の表面被覆・改質材料として,必要不可欠な材料となっている.TBCは,様々な方法で施行されるが大気溶射法(以下APS)が一般的である.ここでTBCsは耐環境性能を向上させる一方で,皮膜のはく離などといった課題が存在し,これら課題が高温部材,しいては機器全体の寿命を支配する因子となっている.この問題解決のため,さらにはTBCの最適化や寿命管理のためには,TBC皮膜の力学的特性に関する情報が必要不可欠である.しかし多くの場合,この特性はバルク材と大きく異なるとされており,また微視組織や成膜プロセスにも大きく依存すると予想され,未解明な点が多い. このような背景に鑑み,本研究では,押し込み試験機を用いた力学的特性評価手法に注目し,一連の研究を行った.まず,いくつかの理想的なモデル材に対して押し込み試験を行い,この手法による局所的な力学的性質評価の際に配慮すべき事象について検討した.その結果,(1)供試体の表面粗さは弾性係数値のばらつきを増大させるが,本質的な値に影響を与えるものではなく,平均値に注目することでその影響を適切に排除できること,(2)押し込み負荷中の圧痕周囲のクラッキングなどの力学的応力緩和現象は弾性係数を過小評価させること,さらには,(3)圧痕周囲に生じる供試体のpile-upあるいはsink-inなどの現象は圧子/供試材間の接触面積を大きく変化させ,弾性係数の測定値に大きな誤差を生じさせる因子となることなどを実験的に示した. つぎに,これら知見をもとに実際のAPSによるTBCs溶射皮膜の力学的性質の評価を試みた.その結果,(i)皮膜の局所的な弾性係数はプロセスによって強く影響されること,とりわけ溶射に用いるセラミック粒子の大きさの影響が大きいこと,(ii)溶射皮膜の弾性係数はその構造を反映した異方性を示すこと,(iii)皮膜の弾性的特性は一定値ではなく加える負荷の大きさに依存しており,従って,注目する現象の負荷レベルに応じた扱いをすべきであることなどを明らかにした.
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