Research Abstract |
前年度に粒子数密度が散乱に及ぼす影響を検討した際には,検討対象領域は散乱角の小さい回折領域に限られていた.また,計算領域が限られていたため,粒子数密度が低い場合についての検討が出来ていなかった.今年度はスーパーコンピューター上で電磁方程式のFDTD解を得るための計算についてジョブクラスを上げ,手元での2次データ処理用のコンピュータについてもCPU,メモリーを増設した結果,より広範囲の粒子数密度ならびに散乱角について影響を調べることができた.散乱角と範囲が回折領域に限られていた昨年度の研究でも,粒子数密度を大きくしていくと,まず散乱角が非常に小さい領域で散乱エネルギー強度が低下し,さらに数密度を大きくしてゆくと,小散乱角域での散乱エネルギーの強度低下が顕著になるとともに,散乱角の大きい領域に向かって散乱エネルギー強度が低下する領域が広がっていくことはわかっていたが,今年度新たに次のことが分かった.粒子数密度がそれほど高くなく,散乱エネルギーの強度低下がごく小散乱角の範囲に限られている場合には,回折領域外の散乱角の大きい領域にも強度低下は現れない.一方,粒子数密度が高まり,回折領域の端にまで強度低下の影響が及ぶようになると,ほぼ全散乱角範囲に強度低下が現れるようになり,さらに粒子数密度が高まると,全散乱角範囲で散乱エネルギー強度は一層低下していくことが明らかになった.即ち,小散乱角域での散乱強度が低下した分が他の散乱角範囲に回るわけではない.また,粒子数密度に関しては,入射エネルギーの進行方向に粒子間隔を広げるよりも,それに直角の方向に粒子間隔を広げたほうが多重散乱の影響が消えやすく,後者の場合についてはどの程度の粒子間隔で多重散乱の影響が消失するのかをほぼ把握できた.また,散乱体のサイズを統一した単分散の場合について検討を行った結果,粒子数密度が非常に高い場合に全散乱角範囲で散乱エネルギー強度が低下するのは散乱体が多分散の場合と同じであるが,数密度を高めた場合にまず小散乱角の領域に影響が現れ大散乱角側へ影響が広がっていくという傾向は不明確になる傾向が認められた. 3次元物体を扱える計算コードを構築し,物体形状の細長さや姿勢が散乱に及ぼす影響を調べた.この場合は多重散乱の影響は無視できる程度に粒子間隔は大きいと仮定した.多くの細長い散乱体がランダムな姿勢で存在する場合,散乱体の形状は全散乱体で同じであっても,種々のサイズの球形散乱体の集団による散乱と等価になることが明らかになったほか,径を一定に保って長さを伸ばしていくと,等価球集団の平均径,径の分散は大きくなるが,細長くなるほど,平均径,径の分散の変化は鈍くなる傾向があることが明らかになった.
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