Research Abstract |
赤潮や貧酸素水塊の発生が報告されている有明海北部海域の水質環境と底泥環境を把握するため,2004年7月8日から8月9日にかけて溶存酸素の変動に着目した水質・流況観測を,2004年7月には底泥環境調査を行った. 水質・流況の観測地点を昨年度の地点から北に約5kmの浅い海域に選び,昨年と同様の計測を行った.観測期間中,河川や降雨による淡水の流入はほとんどなく,昨年度とはかなり異なった外的要因となった.DOは潮汐周期で大きく変動したが,貧酸素水塊の長期滞留は認められなかった.また,潮汐の解析から有明海の潮汐の増幅に関わる副振動の特性が明らかになった. 底泥環境調査の結果,AVS濃度が0.2mg/gdryを超えている範囲が西部海域で広く見られ,竹崎周辺海域の底泥環境が悪い状態にあることが示された.底泥間隙水中の溶存態無機窒素(DIN,NH_4-N,NO_2-N,NO_3-N)の値は,筑後川や六角川の河口付近から竹崎島へ向かって減少する傾向が,PO_4-Pの値は筑後川の河口付近から竹崎島へ向かって増加する傾向が示された.これは,北東海域が酸化的な状態にあり,南西海域が還元的な状態にあることに依存しており,PO_4-Pの吸着・溶脱現象や無機態窒素の硝化・脱窒が生じたためと推察される.有明海特有の強い潮流によって引き起こされる底泥の巻き上げが水質に及ぼす影響を詳細に調べるため,西部海域で底泥を採取し,底泥による酸素消費の実験を行った.その結果,底泥が巻き上がることにより酸素消費速度が著しく増加することが示された.これは,底泥表面からの酸素消費に加えて,SSによる酸素消費と2価の鉄や硫化水素などの還元物質の溶出に伴う化学的酸素消費に拠るためである.実験結果から見積もられた水柱5mにおける酸素消費速度は,底泥表面が0.21g/m^3/day,SS(SS濃度=14.2mg/l場合)が0.54g/m^3/day,化学的酸素消費が0.24g/m^3/dayであった.SSの酸素消費速度は底泥表面の酸素消費速度の2.6倍であり,化学的酸素消費速度の1.1倍であった.これらの結果から,有明海湾奥部西部海域の底泥環境は嫌気状態にあり,底泥の巻き上げが貧酸素水塊の形成に重要な影響を及ぼすことが示された.
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