Research Abstract |
本研究は,可視光で透明な酸化チタン膜中に鉄磁性微粒子を孤立分散堆積して,そこにおける異種物質の界面部分での電子状態を光照射(含UV線)で刺激誘起して電子授受の確率を増大させ伝導電子を膜中に過剰供給し孤立鉄磁性微粒子間のトンネル電流の増大を図り,磁気抵抗効果の増大させること(光誘起磁気抵抗効果)を検証する。前年度のスパッタ装置内のターゲット配置等改良を踏まえて,2源スパッタリングにより,トンネル電流が励起される程度に孤立分散した酸化チタン/孤立分散鉄微粒子膜の合成を実施し,合成膜の構造評価の結果を踏まえて主として以下の研究計画を実施した。(1)合成した複合膜の構成(堆積鉄量)と膜の光学的透明度の測定,(2)構成膜の透明度と熱処理条件,(3)膜の電気抵抗測定,(4)合成膜の磁気測定,(5)磁気抵抗効果の測定と光誘起効果の検出であった。本年度は薄膜堆積時のガス流安定制御の問題や真空排気系の故障(ターボポンプの交換等のトラブル)が発生し,予定した研究計画の達成度は50%以下であったが,今後の研究のために解決すべき課題を抽出することができた。 本年度の研究の主な実験結果と今後の課題は以下の通りである:(1)鉄微粒子と酸化チタンが交互堆積した複合構造膜は,堆積時の酸化チタンはアモルファス状態であり低温加熱(200℃)で二酸化チタン膜となった。この時点では微量ながら巨大磁気抵抗効果(GMR)を示した。鉄微粒子の堆積量が増大すると膜の透明度は著しく低下した。(2)窒素・酸素ガス中の加熱処理(400℃)後,膜の透明度は著しく増大することが分かった。しかし,鉄堆積量が比較的多い交互堆積膜では,熱処理後は鉄の酸化によるものと思われる黄色を呈し,磁気測定の結果は,焼鈍前に比べて著しく磁化が低下した。これは,加熱温度域が合成酸化チタン膜の結晶構造がルチル型よりアナターゼ型が安定な温度域のためと鉄の酸化によるものと推測されたが,X線回折では鉄酸化物の存在は明確には検知されなかった。(3)合成膜の電気抵抗は合成直後で光学透明度と相関があり,透明度の高い膜は測定ができず,磁気抵抗効果の測定の難しさを示唆した。実際に合成時には微少な巨大磁気抵抗効果が認められたが,透明度を増した複合膜では測定ができなかった。 今後は解決すべき課題(ガス流量計,膜厚計測計などの設置による合成膜作製)を解決し,バンド幅を変化できると言われている窒素ガスを含むスパッタガス中での膜製造を行い,磁気抵抗効果の測定ならびにUV照射効果による光誘起効果の検出を明確に示す実験データを集積する。
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