Research Abstract |
コレステロール合成系フィードバック制御の異常は,多くの肝細胞癌に共通の所見である。この異常メカニズムの解明は,肝癌の発癌および増殖の抑制方法の開発に寄与する可能性がある。本年度は肝癌(McA-RH7777)移植ラットにおける癌部と非癌部で,コレステロールの合成,分泌,異化に関与する様々な酵素の発現と活性,核内レセプターを含む転写因子の発現,核内レセプターのリガンド濃度の測定と解析をMicroarray, real-time PCR, Western bloting, GC/MS等を用いて行った。昨年度までに,LXRαのリガンドである一部のoxysterolsが肝癌組織中で増加していることがわかっていたが,LXRαの標的遺伝子であるABCA1,ABCG1,ABCG5,ABCG8等はいずれも有意に増加していた。次にoxysterols増加の原因を明らかにするために,oxysterols合成系(CHOL合成系)と分解系(胆汁酸合成系)の評価を行った。その結果,腫瘍組織ではoxysterols合成系の亢進と分解系の抑制を認めた。CHOL合成系を促進する転写因子SREBPsおよびその制御蛋白群(SCAP, INSIG-1,INSIG-2)の遺伝子発現は,いずれも腫瘍組織で5倍以上に増加していた。OxysterolsはSREBPsの活性化を抑制し,CHOL合成にフィードバックをかけるセカンドメッセンジャーと考えられているが,腫瘍組織ではSREBPsおよびその制御蛋白群が増加しているため,フィードバック制御がかかるoxysterols濃度のセットポイントが高くなっているものと考えられた。一方,胆汁酸合成系に関しては,腫瘍組織では対照肝に比べて胆汁酸濃度は低下し,核内レセプターFXR/SHP系の発現も低下していた。すなわち調節系は胆汁酸合成促進の方向に作用していたが,合成酵素系の発現はそれに反応せず著明に抑制されていた。そのメカニズムについてはさらに検討中である。
|