Research Abstract |
ラットの脳は周生期の性ステロイドホルモン作用により性特異的に分化し,脳内には形態学的な性差が認められる性的二型核が形成されていく.この性的二型核の存在によって性特異的な脳機能が獲得される.視索前野には,大きさと神経細胞数が雄よりも雌に優位なAVPvN-POAと雌よりも雄に優位なSDN-POAが存在する.AVPvN-POAおよびSDN-POAの形成にはアポトーシスによる細胞死が深く関与するが,その制御メカニズムの詳細は明らかにされていない.本研究では,神経系のアポトーシスに性差が認められる新生仔期ラットのAVPvN-POAとSDN-POAにおけるアポトーシスの分子機構およびその性差を検証することを目的として,PD1雌雄ラットのAVPvN-POAおよびPD8雌雄ラットのSDN-POAにおける活性型Caspase-3発現の免疫組織化学的解析とBcl-2ファミリー分子発現のウェスタンブロット解析を行った.その結果PD1のAVPvN-POAには活性型Caspase-3発現細胞が雌よりも雄において有意に多く,PD8のSDN-POAに存在する活性型Caspase-3発現細胞は雄よりも雌において有意に多かった.さらに,活性型Caspase-3と神経細胞マーカー(NeuN)の蛍光免疫二重染色の結果,活性型Caspase-3は神経細胞に発現していることが分かった.以上のことから,発達期のAVPvN-POAおよびSDN-POAでは,Caspase-3の活性化によって神経細胞のアポトーシスが誘導されるシグナル経路が存在し,かつ,この経路によって引き起こされる神経細胞のアポトーシスには性差があることが示された.Caspase-3の活性を調節するBcl-2ファミリー分子(Bax,Bcl-2,Bcl-Xl,Bad)の発現の性差を調べた結果,PD1のAVPvN-POAを含むPOA領域ではBc1-2,Bc1-xLおよびBadの発現に性差はみられなかった.また,Bax発現は雄よりも雌において有意に多かった.PD8のSDN-POAにおいては,Bax発現が雄よりも雌において有意に高く,Bcl-2の発現は雌よりも雄において有意に多かった.Bcl-xLおよびBadの発現には性差は認められなかった.以上の結果から,SDN-POAでは,Caspase-3の活性化を促すBaxとそれを抑制するBcl-2の発現の性差によって,Caspase-3活性化を介した神経細胞のアポトーシスの性差が生じることが示唆された.一方,PD1のAVPvN-POAにおけるCaspase-3活性化の性差はBax,Bcl-2,Bcl-xL,Badの発現に起因しているのではなく,他のBcl-2ファミリー分子の関与やミトコンドリア経路以外の経路を介したCaspase-3活性調節によって生じている可能性が考えられた.
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