Research Abstract |
本研究では,特性の異なる6つの金属酸化物半導体センサーをもつ電子嗅覚装置により,口臭の主な原因物質とされている3種類の揮発性硫化物(硫化水素,メチルメルカプタンおよび硫化ジメチル)を定量的に測定できることを確認し,ヒトの呼気試料を用いて,本測定法の口臭検査法としての有用性について,官能試験を至適基準として,ガスクロマトグラフィによる評価と比較し,さらにその測定結果と口腔保健状態との関連性を調べた。 揮発性硫化物を種々の濃度で発生させ,電子嗅覚装置の出力値から多重回帰分析法により予測濃度を算出した結果,3種類の揮発性硫化物すべてにおいてガスクロマトグラフィによる測定濃度との間に非常に強い正の相関を認めた(各r=0.99,p<0.01)。また,官能試験を至適基準として官能スコアが2以上の場合を口臭あり,2未満の場合を口臭なしと判定し,電子嗅覚装置の出力から算出した予測官能値,およびガスクロマトグラフィを利用して測定した揮発性硫化物濃度を対数変換した値から特異度と敏感度を算出しROC曲線をプロットした結果,予測官能値からのROC曲線は左上方に突出し,ROC曲線下部の面積は0.879となり揮発性硫化物濃度を対数変換した値によるROC曲線下部の面積0.698よりも有意に大きく(p=0.0052),本法は,口臭のスクリーニング検査法として,ガスクロマトグラフィよりも優れていることが示唆された。さらに口臭評価値を従属変数とし,年齢,性別,喫煙習慣,歯周病有病歯率,舌苔スコアおよびプラークコントロールスコアを独立変数として重回帰分析および多重ロジスティック分析を行った結果,予測官能値は官能スコアと同程度の決定係数であった(R^2=0.41,0.46)が揮発性硫化物濃度の決定係数は0.17と低かった。また,予測官能値は性別,歯周病有病歯率,舌苔スコアおよびプラークコントロールスコアといった臨床評価値と有意に独立して関連性を示し,それらのオッヅ比はそれぞれ22.7,22.0,9.8および12.5であったが,揮発性硫化物が有意に独立した関連性を示したのは歯周病有病率のみであった。以上の結果より,電子嗅覚装置より得られる予測官能値は口臭検査法としての再現性や有効性も高く,口臭の臨床指標として有用であることが示唆された。
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