2005 Fiscal Year Annual Research Report
近現代におけるモンゴル系諸集団とイスラームの関係について
Project/Area Number |
15401034
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
大野 旭 (楊 海英) 静岡大学, 人文学部, 助教授 (40278651)
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Keywords | イスラーム / モンゴル / 保安族 / 東郷族 / 回族 / サラール族(撒拉族) / 神秘主義 / ホトン人 |
Research Abstract |
東アジアにあるさまざまなムスリム集団は、13世紀に成立したモンゴル帝国がもたらした遺産の一つである。「中国西北のイスラーム」、と従来から一括して呼ばれてきた諸集団であるが、その内部の実態は千差万別である。社会主義中国による「識別プロジェクト」を経て、彼らの多くは「民族」となった。現代中国は56の民族からなる。そのうちイスラームを信仰する民族が10ある。10あるイスラーム民族のうち、東郷族と保安族はモンゴル語系の言葉を母語としている。また、現在ではモンゴル族とされている民族の中にも、ホトン人やトゥモト人のようなムスリムたちがいる。 かつて、東郷族と保安族は「イスラームに改宗したモンゴル人」という見方が一般的であった。しかし、現在、彼らはこのような見解に異義を唱え始めている。このように民族の歴史に関する見解に変化が生じたのは、イスラームが復興したのではなく、モンゴルが嫌われているからでもない。中国が最近国内の諸民族にethnic groupの地位を与え、均一的な「中華民族」という国民国家を創ろうとしていることと連動している。彼らは自らの出自をモンゴルにではなく、中央アジアに求めている。「イスラームに改宗したモンゴル人」だと、あくまでも「モンゴルの下位グループ」に終わってしまう危険性があり、エンゲルスやスターリンらの言う「歴史のない民族」に落とされてしまう可能性がある。これに対し、元の故郷を中央アジアに求めたことで、古くからイスラームを信仰し、モンゴルとは異なる「歴史を担う民族」の地位が獲得できる。 中国西北のムスリムたちは中央アジアと緊密なネットワークを維持してきた。今後とも、イスラームを共通の価値観として抱く人々がどのように自分たちの歴史を創って行くかに注目し続ける必要があろう。
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Research Products
(7 results)