Research Abstract |
試料の収集:国立シンガポール大学より肺癌症例のティシアレイ切片(肺扁平上皮癌15例,肺腺癌15例)の供与を受けた.また,韓国テグ啓明大学病理学教室を訪問し,研究代表者,深山および研究分担者,後藤が検索に適切な症例の選定を行った.この結果,肺扁平上皮癌34例,肺腺癌33例,食道癌35例を収集した. HPVの検出:Wide Spectrum HPV Probe (Dako)を用いたISHの結果は,シンガポール症例はいずれも陰性であった.一方,韓国テグ症例の結果は,肺扁平上皮癌2/35(5.7%),肺腺癌0/33(0%),食道癌2/35(5.7%)が陽性であった.さらに同一症例に対し,ホルマリン固定パラフィン包埋切片よりDNAを抽出し,PCRによるHPV検出を行った.PCRはコンセンサスプライマー(GP5+GP6+)を用いた.韓国テグ症例の結果は,肺扁平上皮癌2/34(5.9%),肺腺癌1/33(3.0%),食道癌1/35(2.9%)が陽性であった. 以上の結果から,日本,台湾,韓国,シンガポールを比較すると,肺扁平上皮癌での陽性率は3.2,5.7,3.2,0%であった.肺腺癌では,5.0,6.7,2.4,0%であった.食道癌でも,日本,台湾,韓国の陽性率は,9.2,6.4,4.0%と東アジアでの頻度に違いはみられなかった.シンガポールの結果は,ティッシュアレイであるため,検索範囲が狭いという制約を反映している可能性もある. PCRの結果では,日本,台湾,韓国の肺扁平上皮癌での陽性率は1.6,5.7,2.8%,肺腺癌で,2.5,6.7,4.8%,食道癌では5.3,3.2,2.7%であった. 以上,何れの癌においても低頻度ではあるがHPV感染が認められ,東アジアにおける地域差は認められなかった.日本国内では,鹿児島県の食道癌で高率であったことが注目される. HPVの存在様式:食道癌,肺癌におけるISHでの陽性所見は,子宮頚癌とは異なり,一部の腫瘍細胞に限られていた.このようなウイルスの存在形態が,報告者によって食道癌,肺癌におけるHPV陽性率が大きく異なることの原因になっている可能性がある.
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