2004 Fiscal Year Annual Research Report
哺乳類生殖細胞への毒性を低減した、耐凍剤を用いない凍結保存法開発の基礎研究
Project/Area Number |
15500302
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Research Institution | University of Miyazaki |
Principal Investigator |
越本 知大 宮崎大学, フロンティア科学実験総合センター, 助教授 (70295210)
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Keywords | 凍結保存 / 耐凍剤 / 細胞膜透過性 / 精子 / 凍結速度 / 融解速度 / 種間差 |
Research Abstract |
細胞凍結保存の必須条件とされている耐凍剤添加の是非を問い直し、従来不可能とされていた動物種の精子凍結法を開発するための基礎的知見を集積する目的で、二年間に渡って以下の研究を行った。1)複雑な形状を呈する精子細胞の物理的パラメータ(体積、細胞膜の物質透過性等)の測定を試みた。2)数種類の齧歯類精子の浸透圧感受性を測定し、その結果から従来型の耐凍剤を用いない凍結溶液を設計した。3)2の結果をもとに、これまで報告がない齧歯類精子の凍結保存を試み、体外受精の可能性を検討した。4)主要実験動物であるマウス精子凍結保存で問題となっている系統間格差を克服するために、浸透圧と凍結速度感受性につて検討を行った。その結果、1)フローサイトメーターによる細胞体積変化が示唆されたが、非生理的な浸透圧曝露による膜性状の変化等のアーティファクトを克服して正確な測定法を確立するにはさらなる検討が必要である事がわかった。2)スナネズミ3種類の精子について、浸透圧感受性を試験し、スナネズミ精子の耐凍性に関しても浸透圧感受性の差を確認した。3)従来型耐凍剤では凍結が不可能だったスナネズミ類の精子を2の結果をもとに設計した溶液を用いて全て凍結保存が可能である事を示した。また実用化に向けた次のステップとして体外受精を試みたところ、一種において2細胞までの発生を確認した。4)マウス系統間に明確に見られる精子耐凍性の差の原因については、当初予想した浸透圧感受性の差よりも、凍結速度の差による影響、即ち物質の膜透過性の差に原因があるのではないかと推察できる実験結果を得た。 以上の研究から、マウスに限らず齧歯類精子の凍結には1)従来型の耐凍剤は機能せず、溶液の粘性を上げる非透過型物質の添加に可能性が見いだせること。2)種間差、系統間差の原因が、細胞膜の透過性の差にある可能性が高いことがわかってきた。これは生物物理的なアプローチによる凍結保存法の開発という方向性が有効である事を示しており、継続的な研究が凍結法の開発に繋がると確信した。
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