Research Abstract |
睡眠は生存のために欠くことのできない行動である.特に高度技術化社会をむかえ,生産活動や経済利益を重視するあまり,睡眠だけでなく休養自体を軽視する傾向が強まっており,自然に逆らった生活から生じたひずみのためにストレスや疲労が原因の病気が増加している. 本研究では,睡眠状態をモニタリングし,その状態に応じた最適な睡眠環境が提供できるシステムの開発を目指している.ところで,睡眠深度に影響を及ぼす要素として,温熱,光,音が三大環境要因といわれている.ここではその中でも最も睡眠に影響を与える温度に着目した.研究初年度には次の2つの項目を検討した.1)従来の睡眠ポリグラフ測定以外の生理量計測による睡眠状態推定,2)寝床内温度変化が睡眠状態に及ぼす影響の検討,の2つである. 1)に関しては,一般的に睡眠深度を判定する際,脳波,眼球運動,顎部筋電を睡眠ポリグラフとして計測が,この方法では電極装着に手間がかかる.本研究では,計測が容易に行うことができ,温度調節を担う視床下部に流れ込む脳血流温を反映することから耳内温に着目し,睡眠深度や深部体温,および脳血流量との比較検討を行った. その結果,睡眠深度,とくにREM期において耳内温の上昇が見られ,耳内温計測によって,睡眠状態を推定できる可能性が示された.耳内温の変動は値こそ小さいものの,脳活動の指標にもなり得るので睡眠状態推定に有効だと考えた. 2)に関しては,睡眠中に寝床内温度を変動させ,そのときの睡眠状態の変化を調査した.実験に際しては,REM期に加温し,SWS期に冷却する同相実験と,その逆である逆位相実験を比較した.その結果,逆位相の寝床内温度変化パターンによって,SWS占有率が減少し,睡眠が浅くなることが示された.これは寝床内の温度変化が皮膚の感覚受容器に刺激を及ぼし,睡眠状態に影響を及ぼしていることが示された.
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