Research Abstract |
本研究では,教師と共同で「数学的表記の内化のメカニズム」に基づく指導ユニットを開発し実際に試みることを通して,教科書にかかれた用語・表記や計算,公式の教授と子どもの比例の考えの育成との関わりを教師が考える機会を設けた。そして,教師が両者の関わりの重要性を認識することによって,授業実践がどのように変化するのか,また,子どもの比例の考えがどのように促進されるのかを考察した。 平成15年度は,フィールドワークによってデータの収集を行った。茨城県の公立小学校において,9月〜11月に1人の男性教師と共同で,「単位量あたりの大きさ」(第6学年)及び「小数の乗法・除法」(第5学年)の単元の指導の計画を立て,実践を行った。そこでは,指導前の児童の比例的推論の調査,指導中の注目児童の観察・インタビュー・文書類の収集,指導後の児童の比例的推論の調査などを行った。児童の側の情報は定期的に教師にフィードバックし,また,教師とも定期的に討議の時間を取った。 平成17年度は,得られたデータを整理し,教師の側の考察と児童の側の考察を行った。教師においては,クラスの子どもの変容という視点が,研究者と教師が議論をする場を提供していた。また,子どもに図を描かせるという教授行為の提案が,研究者と教師の議論を深め,教師に様々な振り返りの機会を与えていた。児童の側においても,図を介しての教師の様々な試みが,児童の算数学習の規範をつくったり,図を思考の道具として内面化したりするプロセスを促進していた。 これらから,具体的な教授行為研究上の産物であるモデルと,実際の指導との関わりとの間に存在する溝を狭めるためには,図をかかせるなどの方策(その教師が期待と興味を持ち,ある程度具体的かつ実現可能であって,しかも教師の意識の中でクラスの児童との接点があるような方策)を手がかりとしたはたらきかけが重要であるといえる。
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