Research Abstract |
北極のスピッツベルゲン島とグリーンランドおよび南極のキングジョージ島からこれまでに分離されたコケに感染力をもつ土壌糸状菌について,形態的特徴とリボソームDNA (rDNA)の5.8S領域を含むinternal transcribed spacer領域のPCR-RFLPと,同領域の塩基配列を調べた。これまでに,スピッツベルゲン島には,種レベルで異なる5つのグループの、また,キングジョージ島には2つのグループのピシウム属菌(土壌糸状菌の1属)が生息していることが明らかになっているが,今回新たに,グリーンランドにも2グループの同属菌が生息していることがわかった。さらに,それらの内1種が,上述の3つの地域に広く分布することが明らかになった。これらの土壌糸状菌のほとんどが,試験管内での接種実験でコケに対する病原性を有し,また,培地上での菌糸生育適温が22〜28℃であることから,温暖化によってこれらの土壌伝染性病原菌が活性化し,極地の重要な1次生産者であるコケの生育に影響を及ぼす可能性が示唆された。 次に,極地のコケに生息している土壌糸状菌の動態に及ぼす温暖化の影響を明らかにするため,2004年8月にスピッツベルゲン島に滞在し,以下の野外実験を行った。前年の夏に,健全なコケ群落上に15cm四方の正方形の区画を設置した。また,隣接して強化ガラス製のオープントップチャンバーを設置し,年間平均温度を約1℃上昇させた区画を設けた。これらの区画から,コケの茎葉を無作為に抜き取って培地を用いて土壌糸状菌を分離し,コケへの感染率を調べた。その結果,土壌糸状菌のコケへの感染率はチャンバー設置の有無に関わらず2.0〜3.3%であることがわかった。同様の調査を2006年8月まで毎年実施し,土壌糸状菌のコケへの感染率と,チャンバーによる温暖上昇との関係を調べる予定である。 上述の実験に加え,高緯度北極域の主要植生の1つで多年草のムカゴトラノオの花序に発生する黒穂病菌について調査し,その形態と生態について,いくつかの新知見を得た。
|