2003 Fiscal Year Annual Research Report
フランス語圏における少数民族の文化変容と統合形態に関する比較的研究
Project/Area Number |
15510198
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
長谷川 秀樹 千葉大学, 大学院・社会文化科学研究科, 助手 (20322026)
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Keywords | フランコフォニー / フランス / 植民地 / サンゴール / アフリカ / ケベック / 共和主義 / 多元主義 |
Research Abstract |
今年度の主たる研究の内容は下記の通りである。 (1)フランコフォニー概念および思想、国際組織の成立過程についての研究 海外におけるフランコフォニー研究の先駆者(M.テテユ、X.ドニオ等)の文献サーベイ、1962年にフランスにて刊行された思想誌『エスプリ』のフランコフォニー特集号、セネガルの元大統領で詩人であり、国際フランコフォニー組織の設立に大きい影響を与えたL.S.サンゴールの著作集『リベルテ』(特にその第3巻)などの文献サーベイにより、フランコフォニーという概念が1880年代に地理学者O.ルクリュによって創出された比較的新しいものであること、しかし、フランスの植民地帝国が崩壊する1960年代初等まではこの概念は使われなかったこと、この概念を再び用いたのは旧フランス植民地の独立運動家・知識人たち(具体的にはサンゴールやチュニジア独立運動のH.ブルギバ、現在カンボジア国王であるN.シアヌークなど)であること、結果、国際フランコフォニー組織の成立に中心的役割を果たしたのはフランスではなく、アフリカを中心とする旧フランス領植民地であること、1960年代後半から80年代にかけてはアフリカとカナダ、ケベック州がフランコフォニーの中心的存在であったこと、よって、フランコフォニーの理念は必ずしも「ポストコロニアリズム」とは言えないことが明らかになった。こうした調査結果については16年度に論文や報告の形態で公表することを考案しており、『日仏文化』、『ことばと社会』などでの論文執筆および日本国際政治学会、日本カナダ学会などでの報告を検討している。 (2)フランス国内における文化的多様性と共和主義の関係についての研究 フランコフォニー理念のひとつに掲げられている概念の一つに「文化的多様性」というものがある。これは、英語やアメリカ文化に偏重した画一化や商業主義的グローバリゼーションに対峙するもので、フランコフォニーはこれに対してフランス語の画一的な押し付けを目指すのではなく、他の少数言語・少数文化との共存とその原理を掲げている。米国の国際場面における政治的ユニラテラリズムが進行するなか、フランス共和国はこれに対して多極間、あるいは国際協調主義を掲げており、その際に依拠するものはフランコフォニーの理念である。だが、一方で、2003年はフランス国内でイスラム系移民とその子弟(女子)がスカーフを身にまとって公立学校に通うことが問題になり、2004年初頭、法律でこれを禁じることとなった。これはライシテという公共空間における非宗教原理による措置であるが、イスラム系移民を差別し、彼らの表現の自由を奪う措置だという批判もある。フランスは対外的には多元主義を掲げ、国内については共和主義を楯に多元主義を否定する論理を掲げている。だが、こうした「論理の使い分け」はフランスがフランコフォニーに依拠する限りは通用しない。この問題についての研究成果は16年度に論文等により公表する予定である。
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Research Products
(2 results)