2005 Fiscal Year Annual Research Report
インドにおける経済自由化と都市労働者-長期的な生活設計構築のための社会学的研究-
Project/Area Number |
15510207
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Research Institution | Kyushu International University |
Principal Investigator |
樋口 里華 九州国際大学, 国際関係学部, 講師 (40330956)
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Keywords | インド / 都市 / 経済自由化 / 生産労働者 / 早退退職 / 世帯戦略 / 失業 / 労働組合 |
Research Abstract |
インド最大の都市ムンバイーでは、急激な都市変容と産業構造の転換が進展している。本研究では、失業前後の生産労働者世帯の社会経済状況の変化についてインタビューを実施し、問題点と環境への対応策を検討し、以下の知見を得た。 (1)失業の過程は多様であり、倒産や早期退職などの失業に至る過程の相違が、法的、経済的、心理的に大きな差異を発生させているため、失業過程の相違に着目する必要があること。 (2)失業後は大半の労働者が最終的にはインフォーマル・セクターで就労するようになるが、失業後の一定期間は下降移動を心理的に認めがたく、同セクターでの就労に極めて消極的である。そのため、都市下層とは区分し、「新都市下層」として考える必要があること。 (3)Voluntary Retirementではなく、多様な圧力をかけて退職を迫るCompulsory Retirementが横行し、それを経営側との交渉権をもつ代表労働組合が後押ししており、同組合は労働者に対してある種の圧力団体化していること。こうした状況の中で、都市変容により工場がホテルなどに生まれ変わる状況を目撃している労働者は厭世的になっていること。 (4)失業後の将来設計についての教育が全くないため、資産運用に失敗するケースが少なくないこと。また、子弟の教育や労働者本人の老後などに関しての長期的・戦略的な生活設計が構築できないケースが多いこと。 (5)(3)に見られるように、労働者に対する組合の支援は極めて小さく、失業後の世帯の対応には、世帯員の意思、人的資本とともに世帯員全員のネットワークが重要である。特に地域ネットワークと子弟のネットワークが果たす役割が大きいこと。 以上の点から、失業後の心理的サポートやライフプランニングの教育が不可欠であり、また労働者の状況を総合的に明らかにするためには、世帯単位での研究を行う必要があることが改めて明らかになった。
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