2005 Fiscal Year Annual Research Report
人間と自然・本性のダイナミズム--東方・ギリシア教父の倫理学的総合研究--
Project/Area Number |
15520019
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Research Institution | KYUSHU UNIVERSITY |
Principal Investigator |
谷 隆一郎 九州大学, 大学院・人文科学研究院, 教授 (60128048)
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Keywords | 人間 / 自然・本性 / ダイナミズム / 教父 / ギリシア教父 / 善 / 神 / 自己 |
Research Abstract |
今年度は本研究の最終年度として、東方・ギリシア教父の伝統の集大成者と目される証聖者マクシモス(五八〇頃-六六二)の主要著作を吟味し、その歴史的かつ本質的な意味と構造を明らかにすべく努めた。 マクシモスにあっては、諸々の有限なもの、自然・本性(ピュシス)は、決して完結し静止したものではなくて、自らの可能性の十全な展開・現実化に向って開かれたものとして捉えられていた。とりわけ人間的自然・本性は所与の姿として単に「在る」だけではなく、「善く在ること」(徳・アレテー)の成立へと開かれ、さらには「つねに善く在ること」という神的存在にまで定位されている。そしてそこに、存在論的ダイナミズムとも言うべき視点が漲っているのだ。しかし、そうした「善く在ること」(アレテー)の成立は、むろんわれわれにとって必然的なものではあり得ず、自らの自由・意志による択びに依存している。すなわち人間は、神の働き(エネルゲイア)--それは人間の存立の根拠であり、かつ志向してゆくべき究極の目的でもあるが--に対して、心披き聴従してゆくか、それとも背反して己れを閉ざしてしまうかに基づいて、「善く在ることの成立」、「存在(=神)の現成」に与るか、非存在へと頽落してしまうかの分水嶺に、その都度立っている。それゆえ、人間が自らの自然・本性の開花・成就、そして神的生命への与りとしての神化の道をゆくためには、己れの情念や傲りとの闘いが不可欠のものとなるのだ。 こうしたマクシモスの文脈にあって、無限性へと披かれゆく意志やそれらを宿す広義の身体性が重要な意味を有し、またアレテー成立の根拠として、いわゆる受肉の現在とも呼ぶべき事柄が人間探究の普遍的な問題として問い直されることになる。そしてその根底には、人間を紐帯として全自然・本性がその完成たる神化へと披かれているという把握が存しているのである。 以上のような基本的把握のもとに、今年度はとりわけ、「情念と自己変容」、「身体性」、「人間本性の展開・成就と意志」、「エイコーン(象りないし似像)とホモイオーシス(類似性)」といった諸々の論点を吟味し、幾つかの論文にまとめた。それらは今後、より大きな論考、書物を記してゆくための一つの素地となるであろう。
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Research Products
(5 results)