2005 Fiscal Year Annual Research Report
日本における神仏関係思想をめぐる倫理学的基礎研究--神・仏概念の原理的解明--
Project/Area Number |
15520032
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Research Institution | University of East Asia |
Principal Investigator |
上原 雅文 東亜大学, 総合人間・文化学部, 教授 (30330723)
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Keywords | 神 / 仏 / 聖地 / 景観 / 存在の生成的威力 / 情念 / 神話 / 天皇 |
Research Abstract |
最終年度である本年度は、研究の継続と総括を行った。 まず神概念についての原理的解明を展開させた。第一に、<存在の生成的威力>(<物そのもの>)としての神が、空間的に外化され、海山の彼方に神の原郷が想定される心的作用の解明、及び原郷から来訪した神が低山などに憑着する事を想定する心的作用の解明である。その心的作用には、神を遠ざけつつ引きつける(遠心と求心)という矛盾する心的作用の弁証法的構造が見られる。 第二に、神が憑着する場所は「聖地」となるが、その聖地パターンが待つ倫理学的原理の解明も進めた。聖地としての神社周辺の景観は、海・島・川・神社・神体山という基本的要因からなり、それらがほぼ一直線上に並ぶことを明らかにした。そしてその景観構造が、遠心と求心という矛盾する心的作用を空間的に外化した構造であることを解明しつつある。神の原郷を彼方に"見る"遠心的空間構造と、神を迎えて神と一体化する求心的空間構造である。 第三に、『古事記』上巻神話における、<存在の生成的威力>としての神と天皇との関係を解明しつつある。古事記神話においては、神と人との関係を男女の対関係とする「第一次神話」(佐藤正英)をもとに、<物そのもの>とそれとの一体化を求める深い情念(<感情・欲望>)とが同一視されているという特徴がある。神話は、神との一体化を求める巫女(イザナミ)と巫女との一体化を求める男(イザナキ)の話に始まる。しかしそれは不安定なものだった。様々な蹉跌を経て、巫女性(深い情念)と高天原に由来する<理知>とをともに内在化させたアマテラスが誕生する。アマテラスの子孫としての天皇は、男として<理知>を優位な原理として持ち、神との一体化を求める情念は、直接神へと向かうのではなく、在地の巫女を求めることに向かう。それによる神祭りの安定構造が、古事記神話の語る天皇の意味である。 仏概念および神仏関係についての研究としては、和辻哲郎の仏教思想を整理した。悟り・空・菩薩という仏教独自の倫理を日常的倫理と同一視するところに、和辻倫理学の功罪両面が見られる。それは、和辻の神理解の不足(神と空との同一視)に由来すると考えられる。 以上の諸研究の成果を、学会での発表、科研費報告書、雑誌『理想』において公表した(掲載予定も含む)。
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Research Products
(4 results)