2003 Fiscal Year Annual Research Report
16-17世紀ヨーロッパにおける結婚観と離婚観-法と倫理をめぐる考察-
Project/Area Number |
15520068
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
前野 みち子 名古屋大学, 国際言語文化研究科, 教授 (40157152)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鈴木 繁夫 名古屋大学, 国際言語文化研究科, 教授 (50162946)
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Keywords | 結婚 / 離婚 / 16世紀 / 17世紀 / ドイツ / ネーデルランド / イギリス / ミルトン |
Research Abstract |
前野:今年度は特にドイツ語圏とネーデルランドに焦点を当て、北ヨーロッパ都市部の結婚観の変遷を、様々な資料をもとに分析した。19世紀市民社会で一般化する「恋愛結婚」という形式が、17世紀前半のオランダですでに一定の社会的合意を得ていたらしいことは、当時の多くの図像資料や女子教育書から窺える。15世紀にはまだ一般的だった結婚は両親が決めるものという中世的観念が、わずか1世紀あまりの間に大きく変化し、相互の意志と愛情による結婚が望ましいという社会通念が形成されていく。このような過渡期の具体相を、エラスムスの『キリスト教的結婚教育』(1526年)とヴィーヴェスの『キリスト教女性の教育』(1524年)に見られる結婚観と女性観、女性の人生の諸段階を描いた図像や民衆劇のモラルの分析によって探り、この時期の結婚観の変化が人文主義や宗教改革の流れとも密接にかかわる女子教育の社会(制度)化に裏打ちされていることを明らかにした。 鈴木:ミルトン『離婚の原理と規律』(1644年)の翻訳・注付けという作業を行った。この作業を通じて、性格の不一致による離婚は可能というミルトンの情動的ともいえる離婚事由は、聖書解釈とローマ法解釈とを総合させた結論であり、その核にはこの時代に顕在化した個人尊厳と、個人が社会において向き合う「誠実さ」尊重という、二つの「尊し」があったことを確信した。個人尊厳とは主体には様々な権利と選択の自由が天与としてあり、神に応答する形で権利と自由を行使する責任があるとする考え方である。他方、誠実さ尊重とは人間の資格である「正しき理性」によって情動を統整し、なおかつ他者の視線を意識しながらの演技的交わることを偽善として排除する。この二つの「尊し」を生活原理として家庭に持ち込めば、外面はもちろん内心における「調和」が不可欠で、「性格の不一致」とは情動的な離婚事由でないことが判明してきた。
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Research Products
(2 results)