2004 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15520078
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
阿部 成樹 山形大学, 人文学部, 助教授 (90270800)
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Keywords | 美術製作 / アトリエ / アカデミー / ボイム / バルザック / ゾラ / ノディエ |
Research Abstract |
本年度の研究の第一の収穫は、アカデミーによる美術教育を軸として19世紀フランス絵画の動向を再定義しようと試みたAlbert Boimeの古典的な研究、The Academy and French Painting in the Nineteenth Century(1971,1986)の翻訳を刊行したことである(ボイム『アカデミーとフランス近代絵画』森、荒木氏との共訳、三元杜、2005年3月)。この仕事を通じてボイムの研究を改めて詳細に吟味、消化することができたが、その要点は、これまであまりにも軽視されてきたアトリエにおける美術制作方式の「継続」機能である。美術制作が技能の一種である以上、先行世代からの継続は必須の基礎条件であるが、これまでの近代美術史においては、継続性よりも断絶があまりにも強調されてきた。ボイムの研究はこの「前衛神話」の解体を企図したものであり、豊富な歴史的データに支えられたその主張には、依然として重く受け止めるべきものがある。 しかしながら、本年度の研究を通じて、ボイムの研究に決定的に欠落している側面に気づくに至った。ボイムはアトリエを師と弟子、あるいは弟子たち同士の出会いの場と見なし、美術制作をその相互作用の結実と見た。確かにアトリエは一面、そうした相互交流に開かれた場であるが、昨年度以来の本研究が明らかにしたように、この世紀のアトリエには芸術家個人の密室としての側面もある。それは巨匠とあおがれる大家の、各種の資料に埋め尽くされた豪勢なアトリエにも、正反対に喰うや喰わずの無名画家の悲惨なアトリエ図にも実は通底する特質である。これらの孤独な密室としてのアトリエ図は、その主たる芸術家の内面を反映するミクロコスモスとして表象されているのであり、それらの表象は、レンブラントなどの先行例を持ちつつも、特に19世紀において盛んに提出されたのである。この面に着目すると、19世紀フランスにおいて開花した小説という文学形式において、アトリエにおける美術制作という主題がなぜ特権化されたのか、より良く理解できる。それは、作品を生み出す作家という主体作り出すミクロコスモスに他ならない小説という文学形式との親和性によるものと解釈できる。本年度の研究を通じて、このことに思い至ったが、同時にあらかじめ注目していたバルザックやゾラ以外にも、初期ロマン主義の作家たち、特にノディエの重要性をも発見するに至った。 今後これらの収穫をもとに、速やかに論考にまとめる予定である。
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Research Products
(3 results)