2004 Fiscal Year Annual Research Report
ペーター・ハントケの文学における自然描写が持つ近代批判的な意味に関する研究
Project/Area Number |
15520145
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Research Institution | Meisei University |
Principal Investigator |
服部 裕 明星大学, 日本文化学部, 教授 (40180905)
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Keywords | ペーター・ハントケ / サント・ヴィクトワール山 / ポール・セザンヌ / スロヴェニア / 自然 / 反復 |
Research Abstract |
ペーター・ハントケは特に1970年代中頃から「書くこと」の意味と可能性を文学的主題に据えている。それは、現実の表層に現われない「真実」を、自らの文学が如何にして表現することができるかという課題を意味している。ハントケはこうした主題の枠組のなかで、近代の人間中心主義的な世界観が、むしろその担い手であるはずの個々人の主体性を疎外していることを描写しようと努める。それは歴史的に見れば、ナチによる個人及び他民族の究極の抑圧に見られ、現在においては特にメディアによる個々の人間の言語使用の規定に認められる。 そうした個人の主体性の危機のなか、ハントケにとって文学が如何に実在性を獲得できるかということが創作の意義であり課題を意味する。そのためにハントケは70年代後半以降、そこに存在する自然を文学的な実在として言語的に表現することを追求する。『サント・ヴィクトワール山の教え』では、画家ポール・セザンヌの創作態度を跡づけながら、如何にしたら文学が造形芸術のような実在性に迫れるかを模索している。研究者は現地を訪れることによって、同作品の言語表現が如何にセザンヌの作品及び創作態度に啓発されたかを検証した。その結果、ハントケが自然を言語的に描写する過程で、自然のなかに自己の意識の覚醒のきざしを感じ、その意識こそが自己も含めた事物の実在性を表現する淵源であるという認識に至ることが明らかになった。 さらに『反復』においては、自然と自己意識との関係に作家自らの社会現実的な歴史的要素が加わる。同作品では作家自身とその家族の物語が、スロヴェニアの自然を通して主人公の意識のなかに反復される。同物語の複雑な「反復」を稼働させるのが自然の圧倒的な実在であり、自然から得る自己意識のきざしである。筆者はハントケの故郷及びスロヴェニアの自然を実地検証し、以上の認識に到達する大きな手掛りを得た。
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Research Products
(1 results)