2004 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15520156
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
岩崎 務 東京外国語大学, 外国語学部, 助教授 (00151720)
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Keywords | 家郷 / 古代ローマ文学 / カトゥッルス / ウェルギリウス / ホラティウス / 道徳 |
Research Abstract |
本年度は、カトゥッルスの抒情詩集のテクスト分析を行ない、また、最終年度として、主として、ウェルギリウス、ホラティウス、カトゥッルスの作品の比較研究を行ない、それによって以下のような考察を得た。 カトゥッルスの恋愛詩、とくにレスビアとの恋を歌うものは、恋人との関係を、信義や義務に基づいた人間同士の正しい社会的関係を表わす一連の言葉を用いて表現している点で独特であるが、そのような関係が実現する場所として「家」が強調されている。家や家郷と倫理的価値に関する主張との結びつきは、ウェルギリウスやホラティウスにおいても見られる。前者では、『牧歌』において、故郷の土地を追われる牧夫の慨嘆に現われるし、また『アエネイス』では、故国を捨て、新しい家郷を求めるアエネアスはピエタス(敬虔心)をもった人と呼ばれる。後者では、道徳的原罪によるかのように、内乱によって自ら崩壊しようとするローマを去って、新しい故国となるべき理想郷を求めようと詩人は市民たちに呼びかける。これらの詩人に共通して見られる倫理性は、まさに彼らの出自、すなわち家郷と関連していると考えられる。彼らは、北イタリア、あるいは南イタリアの地方都市出身であり、T.P.Wiseman, Catullus and his World(1985)も指摘しているように、これらの田園都市では、質実剛健や公正を尊ぶ伝統的な道徳観が中央以上に根強く存続しており、入植者の末裔である住民たちは新しい家郷の建設の中で伝統的な道徳を保持し、そのことに誇りを抱いてきた。いずれもやがてローマに出て詩人としての名声を得たカトゥッルスたちの作品には、贅沢と遊興と退廃の大都市であるローマと、質素倹約と実直を気風とする家郷とが対立項をなし、その間の揺れや矛盾、あるいは融和が彼らの作品の特徴を生み出している。
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Research Products
(1 results)